piece.6-6
「なんだよじいさん、大げさだなあ!」
拍子抜けしたように、ピクシーと思われる小人が笑った。
「何をいうか! これはわしらが建物の構造の特性を読んで、いかに負荷をかけずにこの壁をだな……!」
小人たちのやり取りを無視して、セリちゃんが穴に駆け寄った。頭を穴に突っ込んで、中にいる小人へ声をかける。
「大丈夫? 何人くらいいる?」
「かなりの数いるけど……ひでえよ。みんなボロボロだよ……動けないやつもいる。……死んでるやつも……。半分は……死んでる……。
それにしても、とても1回じゃ運べないぜ。どうするセリ……」
「とりあえずみんなで1人ずつおぶっていってあげて。残りは……私とカインでなんとかする……」
小人から青く光る『夜光石』という石を渡されたセリちゃんが、穴の中へと入っていった。
僕も穴をのぞきこんでみた。
闇の中でセリちゃんの持っている夜光石がやわらかい光を放って、辺りを青く照らしていた。
よく目を凝らすと、小さな小人たちが身ぐるみをはがされた状態で、ぐったりして身を寄せ合っている。
穴からは僕の知ってる臭いがした。
――これは、『死』の臭いだ。
死体から生まれた臭いが、穴から漂ってきていた。
僕の大嫌いな臭いだ。――というより、これが好きな人なんか絶対にいない。これはそういう臭いだ。
正直、すごく気分が悪くて、僕は早くここから出ていきたかった。
だけど――。
迷わずあの穴の中へと入っていったセリちゃんの姿を見たら、自分だけ先に逃げるなんて考えられなかった。
僕は首巻を鼻まで上げると、もう一度穴の中へ顔を突っ込んだ。
セリちゃんが一人ずつ穴の中からレプラホーンたちを救出する。
僕は手を伸ばして、セリちゃんからレプラホーンたちを受け取ると、背中を向けて準備している小人たちにおんぶさせてあげた。
「……ボクたちを捕まえたやつが使ってた、大きな布袋があったはず。ボクたち、その袋にギューギュー詰めにされて連れてこられたんだ……。それで運んで……。ここは嫌だ……早く助けて……」
レプラホーンのかすれた声に、セリちゃんが返事をする。
「……わかった。その袋に入れて運んでいいのね? もう大丈夫だよ……よく耐えたね……」
僕は近くで寝ていた泥棒の袋をひっくり返して中身を出した。キラキラ光る道具や石が大きな音を立てて転がっていった。
たぶんこの袋なのかもしれない。小人たちもどこからか大きな布袋を見つけてひきずってきた。
「袋あったよセリちゃん。これなら僕とセリちゃんで残りの小人を運べると思う」
僕は穴から出てきたセリちゃんへ声をかけた。
袋にギューギュー詰めにするのはかわいそうだけど、早く助け出してあげなきゃ。
「…………これは……くるなぁ……」
セリちゃんがため息混じりにつぶやいた。
「え? セリちゃん? どうしたの?」
「え? なんにも言ってないよ? 空耳じゃないかな」
セリちゃんは笑いながら僕の頭をなでてくれる。だけど、その声は少し震えているような気がした。
――どうしたんだろう……。
すごく心配だったけれど、セリちゃんが夜光石を握りしめたせいで、辺りは真っ暗になってしまった。
そのせいで僕は、セリちゃんがどういう表情をしていたのか見ることができなかった。
「……死んじゃった子は、申し訳ないけど連れて行けない……。今は生きてる子たちの安全が最優先。急いで撤収しよう」
セリちゃんの号令で、僕たちはレプラホーン救出作戦を完了した。




