piece.5-12
前にセリちゃんが時々言っていた『占い師』というのが、このステラという女の子だった。
占い師なんていうから、なんとなくセリちゃんよりもずっと年上の人を僕は想像していた。
まさかこんな女の子だったなんて……。僕はちょっと驚いていた。
ステラは僕とそんなに変わらないくらいの背格好だ。
ただ足が悪いのか、歩くのがとても大変そうだった。
そしてステラは僕とそんなに歳が変わらないくらいに見えるけど、実は年上らしい。全然そうは見えないけど、セリちゃんと同じくらいの歳らしい。
「別に『お姉様とお呼び!』なんて言わないけど、敬いなさいよね。ボウヤ」というのが、あらためて僕に自己紹介したステラが放った第一声だ。
……偉そう。絶対敬うもんか……。
僕はステラを呼び捨てにすることに決めた。『ちゃん』もつけてあげない。
僕とセリちゃんは、そんな偉そうなステラの野営地に到着すると、すぐに馬車の中の荷物入れの大きな籠へ隠れた。
ステラは、占いキャラバンの名目で旅をしているらしい。
馬車の外には、ステラの仲間と思われる男の人がいた。
ステラは馬車の中にあった寝袋に入って寝たふりをする。
僕たちが隠れてからしばらくすると、グートの兵士たちが見回りにやってきた。
「この辺で踊り子の格好をした女が来なかったか? 【皆殺しのセリ】と呼ばれるお尋ね者だ。隠したところで何の得にもならないぞ。正直に言え!」
馬車の外ではステラの仲間が、兵士に返事をしていた。
「なんすか? ずいぶん物騒な人がうろついてるんすね~。じっさま気づいた?」
「ああっ? なんつったあ? ワシに聞きたいことがあるなら、もっとデカい声で話せと言うとろうが!!」
「だーかーらー! 踊り子の格好をした女の人をー!」
「あーうるさいうるさい。その馬車はお前たちの馬車か? 中を改めさせてもらうぞ」
兵士が馬車の中へ入ってくる気配がする。
僕は息をするのも忘れて目をつぶった。セリちゃんが僕のことを落ち着かせるように、そっと僕の頭をポンポンしてくれる。
「あーだめだめ。中でお嬢が寝てますから。無粋ですぜー」
ステラの仲間が阻止してくれてるようだ。
「……なんだ。見られてマズいもんでもあるのか?」
「だからお嬢が寝てるんですってー。嫌でしょ? おっさんが自分が寝てるところに入ってきたらー……あー! こらこらちょっと!」
「どんな女か確かめさせろ!」
なんとか抵抗しているけれど、やっぱり兵士は無理矢理中を調べる気のようだった。
どうしよう。どうしよう……! どうしよう!!
「は〜い、そこまで〜!」
別の男の人の声がした。
「なんだ貴様は。妨害するなら斬るぞ」
チャキっと剣の鳴る音が聞こえた。
「おっとっと、いいのか〜? 見たところあんた、ギルドの所属じゃないみたいだけど。
うちの雇い主にこれ以上なんかするってことは、俺のギルドを敵に回すってことと同じだと思った方がいいぜ?
いいのか〜? 野良の分際で、大手のギルドを敵に回すってことは〜……」
「ちっ! わかったよ! 帰ればいいんだろ帰れば!」
兵士はぶつぶつと文句を言いながらも、立ち去って行ったみたいだった。
僕のすぐ耳元で、セリちゃんが大きなため息をついた。小さな声で「やられた……」とつぶやいたのを、僕は聞き逃さなかった。
――やられた? それ……どういうこと……?
馬車が揺れる。誰かが入ってきたみたいだ。
コンコンっと、僕らが隠れている籠の外側を誰かがノックした。セリちゃんが舌打ちをして、籠の蓋を持ち上げる。
目の前には、にこにこ笑顔の優しそうなお兄さんが待っていた。
そのお兄さんは僕たちの姿を見ると、さらに嬉しそうに微笑んで、こう言ったのだ。
「セリリン、見~つけた!」
第5章 邂逅の赤 KAIKOU no AKA
~stigmatization~ END




