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流転するアルケウス ~inherited Meme~  作者: イトウ モリ
第5章 邂逅の赤 ~stigmatization~
52/395

piece.5-12



 前にセリちゃんが時々言っていた『占い師』というのが、このステラという女の子だった。


 占い師なんていうから、なんとなくセリちゃんよりもずっと年上の人を僕は想像していた。

 まさかこんな女の子だったなんて……。僕はちょっと驚いていた。


 ステラは僕とそんなに変わらないくらいの背格好だ。

 ただ足が悪いのか、歩くのがとても大変そうだった。


 そしてステラは僕とそんなに歳が変わらないくらいに見えるけど、実は年上らしい。全然そうは見えないけど、セリちゃんと同じくらいの歳らしい。


「別に『お姉様とお呼び!』なんて言わないけど、(うやま)いなさいよね。ボウヤ」というのが、あらためて僕に自己紹介したステラが放った第一声だ。


 ……偉そう。絶対敬うもんか……。


 僕はステラを呼び捨てにすることに決めた。『ちゃん』もつけてあげない。


 僕とセリちゃんは、そんな偉そうなステラの野営地に到着すると、すぐに馬車の中の荷物入れの大きな(かご)へ隠れた。


 ステラは、占いキャラバンの名目で旅をしているらしい。

 馬車の外には、ステラの仲間と思われる男の人がいた。


 ステラは馬車の中にあった寝袋に入って寝たふりをする。


 僕たちが隠れてからしばらくすると、グートの兵士たちが見回りにやってきた。


「この辺で踊り子の格好をした女が来なかったか? 【皆殺し(ブラッド・バス)のセリ】と呼ばれるお尋ね者だ。隠したところで何の得にもならないぞ。正直に言え!」


 馬車の外ではステラの仲間が、兵士に返事をしていた。

 

「なんすか? ずいぶん物騒な人がうろついてるんすね~。じっさま気づいた?」


「ああっ? なんつったあ? ワシに聞きたいことがあるなら、もっとデカい声で話せと言うとろうが!!」


「だーかーらー! 踊り子の格好をした女の人をー!」


「あーうるさいうるさい。その馬車はお前たちの馬車か? 中を改めさせてもらうぞ」


 兵士が馬車の中へ入ってくる気配がする。


 僕は息をするのも忘れて目をつぶった。セリちゃんが僕のことを落ち着かせるように、そっと僕の頭をポンポンしてくれる。


「あーだめだめ。中でお嬢が寝てますから。無粋ですぜー」

 ステラの仲間が阻止してくれてるようだ。


「……なんだ。見られてマズいもんでもあるのか?」


「だからお嬢が寝てるんですってー。嫌でしょ? おっさんが自分が寝てるところに入ってきたらー……あー! こらこらちょっと!」


「どんな女か確かめさせろ!」


 なんとか抵抗しているけれど、やっぱり兵士は無理矢理中を調べる気のようだった。


 どうしよう。どうしよう……! どうしよう!!


「は〜い、そこまで〜!」

 別の男の人の声がした。


「なんだ貴様は。妨害するなら斬るぞ」

 チャキっと剣の鳴る音が聞こえた。


「おっとっと、いいのか〜? 見たところあんた、ギルドの所属じゃないみたいだけど。

 うちの雇い主にこれ以上なんかするってことは、俺のギルドを敵に回すってことと同じだと思った方がいいぜ?

 いいのか〜? 野良(のら)の分際で、大手のギルドを敵に回すってことは〜……」


「ちっ! わかったよ! 帰ればいいんだろ帰れば!」


 兵士はぶつぶつと文句を言いながらも、立ち去って行ったみたいだった。


 僕のすぐ耳元で、セリちゃんが大きなため息をついた。小さな声で「やられた……」とつぶやいたのを、僕は聞き逃さなかった。


 ――やられた? それ……どういうこと……?


 馬車が揺れる。誰かが入ってきたみたいだ。


 コンコンっと、僕らが隠れている籠の外側を誰かがノックした。セリちゃんが舌打ちをして、(かご)(ふた)を持ち上げる。


 目の前には、にこにこ笑顔の優しそうなお兄さんが待っていた。


 そのお兄さんは僕たちの姿を見ると、さらに嬉しそうに微笑んで、こう言ったのだ。


「セリリン、見~つけた!」


第5章 邂逅の赤 KAIKOU no AKA

 ~stigmatization~ END

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