piece.5-11
「あ、お前……!」
突然現れたセリちゃんに、兵士たちが身構える。
「お……お願いします! 何か着るものか……っ、せめて羽織るものを恵んでください……!」
胸の巻布がなくなり、とんでもない恰好になったセリちゃんが、真っ赤な顔をして半泣きになって、路地にしゃがみこんでいる。
そしてあろうことか、兵士たちに助けを求めている。
これは……ひどい……。セリちゃん、かわいそうすぎる。
あわてて飛び出そうとする僕のことをステラがつかんだ。
だけど僕のことなんか目もくれず、食い入るようにセリちゃんの様子をうかがっている。
「……やだー。しばらく会わないうちに、ずいぶん色仕掛けのレベルが上がってんじゃないの……成長したわねー……」
ずいぶんと感心しているステラに、僕は思わず言い返してしまった。
「いや、あれは演技じゃなくて、本気で着る服が欲しいだけなんだと思うよ」
ステラは僕の方を見向きもせず、肩をすくめた。まったく助けに行く気はないらしい。
ステラの視線の先では、セリちゃんが門番二人に見おろされていた。
「なんだお前。ずいぶんひどい格好だなあ。誰かに襲われちまったのか? 無理もねえなあ、そんな格好じゃあ襲ってくれって言ってるようなもんだもんなあ」
「かわいそうになあ。慰めてやろうか? ん? 踊り子さんよぉ」
セリちゃんは体を縮こまらせて、何とか胸を隠そうとしている。そんな弱々しいセリちゃんに、男たちはニヤニヤ笑いながら近づいていく。
大変だ! セリちゃんが大ピンチだ!
でも僕はステラにガッチリとつかまれて、助けに行けない。
「まあ黙って見てなさいって」
ステラは完全に見物モードだ。そんな中、セリちゃんは兵士たちと急接近中だ。
「……お願いです。なんでもしますから……着るものを……」
「そうだなあ……。じゃあ俺たち二人に、うーんとサービスしてくれたら考えてやってもいいぜ」
いやらしい顔を隠そうともしない兵士たちがセリちゃんに手を伸ばし、そのあとは一瞬だった。
速すぎて少ししか見えなかったけど、セリちゃんの剣の鞘が、男たちの喉を直撃した。
ひるんだところを蹴り倒され、門番二人はほぼ同時に倒れた。
一人は鞘で、もう一人は足で。
セリちゃんは、なんとも器用な体勢で、同時に二人の男たちの首を絞めると、あっという間に気絶させた。
すごい……。あっという間に……! セリちゃん、カッコイイ!!
そのまま一人ずつ路地裏に引きずり込むと、セリちゃんは体の小さい方の男の服を脱がし始めた。
セリちゃんは淡々と男を素っ裸にすると、踊り子衣装をその場で脱ぎだした。
「……っ!? セリちゃん!? 脱ぐなら脱ぐって言って!」
僕は慌てて手で目を覆った――――けど、思わず指の隙間から、様子をそっとうかがってしまう僕がいる。
「ああごめん。急いで着替えたくて。見たくないなら横向いてて」
セリちゃんは何でもないような口調で、僕の横で裸になっている。
もう! 見たくないわけないじゃないか! 僕だって男なんだよ! もう! ちょっとは考えてよ!! セリちゃんのバカ!! バカバカバカ!!
そんな僕のことなんかお構いなしに、セリちゃんは兵士から奪い取った服に着替えを終えた。
「……ぶかぶかだしなんか臭いし……。ステラ、あんたのとこに代わりの服ある?」
「もちろん。それより急いだ方がいいんじゃない? 誰かさんが派手に悲鳴上げたせいで、人が集まってきちゃうわよ」
「……誰のせいだよ。誰の……!」
そのあとセリちゃんは、まるでかくれんぼをするみたいに、上手に隠れて無事に街の外まで出ることに成功したのだった。




