表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
流転するアルケウス ~inherited Meme~  作者: イトウ モリ
第1章 余光の赤 ~initiation~
5/353

piece.1-5




 僕がセリちゃんを連れて行ったのは、ボロボロになった教会という場所だった。


 昔はこの教会という場所には神父さんという、僕たちみたいなゴミにも、人と同じように扱ってくれる優しい人が住んでいたらしい。


 どうしていなくなってしまったのか、僕にはわからなかったけれど、ここはもうゴミすら寄りつかない場所になってしまっている。


 雨がひどくて、他に行き場所がないときに、僕はここを使うけれど、なんだか不気味で怖いから、めったに近づいたりしない。


「……ああ。人の気配が全然ない。

 ありがとうカイン。ここで一日休ませてもらうよ」


「セリちゃん。今日一日考えててもいい? その……セリちゃんについていくかどうか……」


 なんでだろう。僕は、セリちゃんと離れたくないと思い始めていた。


 でも、この街を出ていくなんて、レネーマが絶対に許してくれないはずだ。


 それに、もしセリちゃんとこの街を出られたとしても、お尋ね者の【皆殺しのセリ】ちゃんと一緒にいるせいで、僕もディマーズにつかまってしまうかもしれない。


 そうなったら、今よりももっとひどい目に遭うことになるかもしれない。


 でも……。


 なんなんだろう。


 セリちゃんとお別れしたら、いけないんじゃないかって気持ちが、どんどん僕の中で大きくなってきていた。


「ん。わかった。

 明日の朝にはここを出発すると思う。明日までゆっくり考えてみて」


 セリちゃんは優しい笑顔で僕の頭をなでてくれた。






 家に帰ってくると、やけに静かだった。


 レネーマ、昼寝でもしてるのかな?


 となれば平和だ。僕も部屋の隅っこで少しゆっくり休みながら、明日からのことを考えてみたい。


 家の中は相変わらず暗くてくさい。

 でもすぐにニオイでわかった。僕の嫌いな、レネーマの客がいた。


「ああ、カイン。やっと戻ってきたねえ! 遅いじゃないか。ほら、今日はこの人たちがお前を買ってくれるってさあ! たっぷりサービスしておやりよ!」


 タバコをふかしたレネーマが上機嫌で僕を出迎えてくれた。僕にとってはまったく嬉しくない状況で――。


 僕のお腹の中がぎゅってつぶれて、さっきセリちゃんと一緒に食べたパンを、全部吐き出しそうになってしまった。


 男が三人も。――無理だ。


 とっさに逃げたそうとして、体が動かなくなった。


 僕がもし逃げたら、僕を探しに男たちやレネーマが追いかけてくるかもしれない。


 もし――、もしそのせいで、セリちゃんの隠れ家が見つかっちゃったら――?


「おやおや、今日はいい子じゃないかカイン。さあ! たっぷり稼いで二人でうまいものを食べようじゃないか!」


 レネーマの甲高い笑い声を聞きながら、僕は――覚悟を決めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ