piece.1-5
僕がセリちゃんを連れて行ったのは、ボロボロになった教会という場所だった。
昔はこの教会という場所には神父さんという、僕たちみたいなゴミにも、人と同じように扱ってくれる優しい人が住んでいたらしい。
どうしていなくなってしまったのか、僕にはわからなかったけれど、ここはもうゴミすら寄りつかない場所になってしまっている。
雨がひどくて、他に行き場所がないときに、僕はここを使うけれど、なんだか不気味で怖いから、めったに近づいたりしない。
「……ああ。人の気配が全然ない。
ありがとうカイン。ここで一日休ませてもらうよ」
「セリちゃん。今日一日考えててもいい? その……セリちゃんについていくかどうか……」
なんでだろう。僕は、セリちゃんと離れたくないと思い始めていた。
でも、この街を出ていくなんて、レネーマが絶対に許してくれないはずだ。
それに、もしセリちゃんとこの街を出られたとしても、お尋ね者の【皆殺しのセリ】ちゃんと一緒にいるせいで、僕もディマーズにつかまってしまうかもしれない。
そうなったら、今よりももっとひどい目に遭うことになるかもしれない。
でも……。
なんなんだろう。
セリちゃんとお別れしたら、いけないんじゃないかって気持ちが、どんどん僕の中で大きくなってきていた。
「ん。わかった。
明日の朝にはここを出発すると思う。明日までゆっくり考えてみて」
セリちゃんは優しい笑顔で僕の頭をなでてくれた。
家に帰ってくると、やけに静かだった。
レネーマ、昼寝でもしてるのかな?
となれば平和だ。僕も部屋の隅っこで少しゆっくり休みながら、明日からのことを考えてみたい。
家の中は相変わらず暗くてくさい。
でもすぐにニオイでわかった。僕の嫌いな、レネーマの客がいた。
「ああ、カイン。やっと戻ってきたねえ! 遅いじゃないか。ほら、今日はこの人たちがお前を買ってくれるってさあ! たっぷりサービスしておやりよ!」
タバコをふかしたレネーマが上機嫌で僕を出迎えてくれた。僕にとってはまったく嬉しくない状況で――。
僕のお腹の中がぎゅってつぶれて、さっきセリちゃんと一緒に食べたパンを、全部吐き出しそうになってしまった。
男が三人も。――無理だ。
とっさに逃げたそうとして、体が動かなくなった。
僕がもし逃げたら、僕を探しに男たちやレネーマが追いかけてくるかもしれない。
もし――、もしそのせいで、セリちゃんの隠れ家が見つかっちゃったら――?
「おやおや、今日はいい子じゃないかカイン。さあ! たっぷり稼いで二人でうまいものを食べようじゃないか!」
レネーマの甲高い笑い声を聞きながら、僕は――覚悟を決めた。