piece.5-9
身を隠した路地から、完全に人の気配が消えたのを確認すると、セリちゃんは壁を背にしてずるずるとしゃがみこんだ。そして大きなため息をついて、髪をぐしゃぐしゃにかき乱す。
「あー……もう嵌められた。もう絶対私がやったことになってる……こんな目立つ格好まで用意して……あーもう最悪」
セリちゃんはうんざりした顔をして、空を仰ぐ。
「やっぱりあの騒ぎはナナクサたちのせいなんだね?
大丈夫だよセリちゃん。どう考えたってあっちのキャラバンの人たちの方が数も多いし、派手な格好してるわけだし……目立つのは向こうだって。あいつらの方が先に捕まれば……」
セリちゃんはゆっくり大きなため息を吐いて、首を振った。
「仕事が済んだら、すぐに行商キャラバンにでも変装しちゃってるよ。こんなバカみたいな格好して、この辺をふらふらしてるバカは私だけ……。
あーもう。完全に囮にされた……。あーもう、完全に嵌められた……あー……」
頭を抱えるセリちゃん。
僕にはわかってしまった。
セリちゃんの言っている『仕事』が、グートを殺すことを意味していることに。
前にバルさんが言っていた『汚れ仕事』と同じ意味なんだということに――。
なんとなく胸がざわざわして、変な感じがした。
でも僕はとりあえず、セリちゃんの足とか胸とか、いろいろと目のやり場にも困るし、まずは動けないセリちゃんの代わりに服を調達することにした。
「とりあえず僕、なんか着替え……っ、どこかで手にいれてくる! ここで待ってて……!」
「待ってカイン」
大通りに出ようとした僕を、セリちゃんがぎゅっと捕まえる。
ダメ! セリちゃんダメ! その格好で僕のことぎゅってしちゃダメだって!! 刺激が強すぎるから!! 自分の格好、もっと考えて!! お願いだから!!
こんな大変なときなのに、僕の頭は爆発しそうなくらい熱くなる。
冷めろバカ! 沸くな僕の頭! いまは緊急事態なんだぞ!!
「カイン、もう店は閉まってる時間だよ。下手に動くと危ないからここにいて。お願い……。
はぁ、参ったなあ。朝まで見つからないように隠れてなきゃだけど、こりゃ朝になったらディマーズとか、いろんなギルドが犯人探しでなだれ込んで来るなあ……。あー、参ったなあ。やばいなあ。困ったなあ」
参ったなぁと言うわりに、セリちゃんは全然焦ったような口ぶりではない。
本当はすごく緊張しなくちゃいけない場面なんだろうけれど、セリちゃんが――落ち込んではいるけど、落ち着いてるせいで、僕も妙に冷静になれた。そして頭の温度もなんとか下がった。
でも危険なのでセリちゃんの方は向けない。すぐに頭や胸が爆発しちゃうから。本当は…………すっごく見たいけど。
そのせいかもしれない。
物陰から白い小さな手が伸びて、こっちに向かって振られていることに気づけたのは――。




