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流転するアルケウス ~inherited Meme~  作者: イトウ モリ
第5章 邂逅の赤 ~stigmatization~
48/395

piece.5-8



「ぎゃあああぁぁぁぁ……っ!!」


 闇の中で、男の悲鳴が上がった。


「――出口っ!!」

 すぐにセリちゃんの声が響き、僕はあわてて出口を探す。


「……ぎぃぃぃ……! ぐあぁ……っ! ぎゃああぁぁぁ……っ!!」


 立て続けにあがる叫び声は、グートの声みたいだった。でも真っ暗だし、何が起きているかまったく分からない。


 たくさんの人がパニックになって、悲鳴をあげながら、出口はどこだと叫んで走り回る。


 もみくちゃにされている間に、僕は自分がどっちを向いているのか、どこにいるのかわからなくなってしまった。


 どうしよう! 出口は!? 出口はどこ!? セリちゃんは!?


 何度も聞こえる激しい悲鳴。少しずつ濃くなる血の(にお)い……。


「あいつだよ! セリがやったんだよ! あの女が領主を刺したんだ!」


 ナナクサの声がする。そんなはずない。絶対嘘だ……!

 たしかにあいつは嫌なやつだけど、いきなり刺すなんて……そんなこと、セリちゃんがするわけない……!


 セリちゃんはどこ? セリちゃん……!!


 突然、誰かが僕の腕を強くつかんで引っ張った。


「は、離せよ……っ!!」


 僕は夢中でセリちゃんから借りた斧をつかんで、思いっきり振りかぶって――。


 抱きしめられた。すぐに、においで分かる。

 セリちゃんのにおいだ。僕の体から一気に力が抜ける。


 だけど、セリちゃんの肌が直接触れる感覚に気づき、セリちゃんが着ている格好を思い出す。


 そんな場合じゃないのに、僕の頭は()き上がってしまった。


 ――真っ暗で良かった。たぶん僕の顔はいま大変なことになっている。


「危ない危ない。どつかれるとこだった……」


 セリちゃんは笑って、僕の肩を抱いたまま走り出す。


 セリちゃんが僕のことをびっくりさせるからだよ! って文句を言いたかったけれど、今はそれどころじゃないので、がんばって走る。


 走っているうちに、熱くなってた頭が冷えてきた。


 走りながら、僕は急に気がついたことがあった。


 そういえば、自称『シロちゃん』なシロさんって、今日どこにいたんだろう。


 ナナクサと仲が悪いって言ってたけど、ここにいないのなら、どこかで留守番でもしてるのかな。

 まあ、見つかって絡まれても嫌だから、別にいなくて良かったけど……。


「あいつだ! あの踊り子だ!」


「踊り子が逃げたぞ!! 捕まえろ!!」


 もみくちゃになりながらも、なんとか屋敷を跳び出すと、セリちゃんはすぐに細い裏通りに身を隠した。


 いつの間にか、あたりはすっかり暗くなっていた。


 だけど、セリちゃんのとんでもなく目立つ格好は、いくら外が真っ暗になったとしても、普通に出歩くには無理だった。


 もしかして、これって大ピンチなのかも――!?

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