piece.5-8
「ぎゃあああぁぁぁぁ……っ!!」
闇の中で、男の悲鳴が上がった。
「――出口っ!!」
すぐにセリちゃんの声が響き、僕はあわてて出口を探す。
「……ぎぃぃぃ……! ぐあぁ……っ! ぎゃああぁぁぁ……っ!!」
立て続けにあがる叫び声は、グートの声みたいだった。でも真っ暗だし、何が起きているかまったく分からない。
たくさんの人がパニックになって、悲鳴をあげながら、出口はどこだと叫んで走り回る。
もみくちゃにされている間に、僕は自分がどっちを向いているのか、どこにいるのかわからなくなってしまった。
どうしよう! 出口は!? 出口はどこ!? セリちゃんは!?
何度も聞こえる激しい悲鳴。少しずつ濃くなる血の臭い……。
「あいつだよ! セリがやったんだよ! あの女が領主を刺したんだ!」
ナナクサの声がする。そんなはずない。絶対嘘だ……!
たしかにあいつは嫌なやつだけど、いきなり刺すなんて……そんなこと、セリちゃんがするわけない……!
セリちゃんはどこ? セリちゃん……!!
突然、誰かが僕の腕を強くつかんで引っ張った。
「は、離せよ……っ!!」
僕は夢中でセリちゃんから借りた斧をつかんで、思いっきり振りかぶって――。
抱きしめられた。すぐに、においで分かる。
セリちゃんのにおいだ。僕の体から一気に力が抜ける。
だけど、セリちゃんの肌が直接触れる感覚に気づき、セリちゃんが着ている格好を思い出す。
そんな場合じゃないのに、僕の頭は沸き上がってしまった。
――真っ暗で良かった。たぶん僕の顔はいま大変なことになっている。
「危ない危ない。どつかれるとこだった……」
セリちゃんは笑って、僕の肩を抱いたまま走り出す。
セリちゃんが僕のことをびっくりさせるからだよ! って文句を言いたかったけれど、今はそれどころじゃないので、がんばって走る。
走っているうちに、熱くなってた頭が冷えてきた。
走りながら、僕は急に気がついたことがあった。
そういえば、自称『シロちゃん』なシロさんって、今日どこにいたんだろう。
ナナクサと仲が悪いって言ってたけど、ここにいないのなら、どこかで留守番でもしてるのかな。
まあ、見つかって絡まれても嫌だから、別にいなくて良かったけど……。
「あいつだ! あの踊り子だ!」
「踊り子が逃げたぞ!! 捕まえろ!!」
もみくちゃになりながらも、なんとか屋敷を跳び出すと、セリちゃんはすぐに細い裏通りに身を隠した。
いつの間にか、あたりはすっかり暗くなっていた。
だけど、セリちゃんのとんでもなく目立つ格好は、いくら外が真っ暗になったとしても、普通に出歩くには無理だった。
もしかして、これって大ピンチなのかも――!?




