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流転するアルケウス ~inherited Meme~  作者: イトウ モリ
第5章 邂逅の赤 ~stigmatization~
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piece.5-7



 ナナクサの歌うような語りを聞きながら、僕はそっと出口の方へ移動する。


 セリちゃんと離れるのは心配だったけれど、セリちゃんが合図をしたらちゃんと従うって約束をして連れてきてもらったから、いうことを聞かないわけにはいかない。


 だいぶセリちゃんから離れてから、そっと振り返ってみた。ナナクサと向き合っているセリちゃんの表情は、この前みたいな怯えた感じはない。


「さあ! 賭けたいやつは賭けな! 団長のアタシと脱走者のセリ! いまから本気の剣舞での勝負さ! どっちが生き残るか、女同士の殺し合いショーだよ!」


 ――殺し合い!?


 どうしよう。もしセリちゃんがこの前みたいに刺されたら――。

 出口の近くにいたら、すぐに助けに行けない……!


「それにしたって、その格好じゃあ……つまらないねえ。ショーが盛り上がらないじゃないか。誰か、衣装を出しておやり」


 ナナクサの声でキャラバンのメンバーが集まり、舞台で使っている真っ赤な幕布でセリちゃんのまわりを囲む。


「……ちょっと! なにこれ!? こんなの着れるか! ちょっと! やめろ! なにする!!」


 布が裂けるような音と、怒ったようなセリちゃんの声が聞こえる。


「おいおい、なんか中で楽しいことしてんじゃねえか?」

「おい、その布はずせ! 中が見えねえだろ!! 今は素っ裸か?」


 まわりにいた男たちが笑いながら騒ぎ始める。僕は気がついたら斧の柄を思い切り握りしめていた。


 ……うるさい。黙れよ。ふざけるな。セリちゃんがどんな思いでここにいるか知らないくせに……!


 僕は必死で、後ろから殴りつけてやりたい衝動を抑えていた。


「あと3秒でご開帳だよ。間に合わなければお楽しみな光景が見られるねえ」


 ナナクサの言葉に、会場の男たちが歓声を上げる。


 ――セリちゃん……っ!!


 僕はいてもたってもいられず、セリちゃんとの約束を破って引き返す。

 もしセリちゃんが服を着ないで出てきちゃったら、あの真っ赤な幕を奪い取ってセリちゃんを隠さなきゃ……!


 ナナクサが楽しそうにカウントダウンを始める。

「3……2……1……」


 バサッと音を立てて、幕が上がる。男たちが歓声を上げる。


 セリちゃんは裸――じゃなくて、ぱっと見、裸なんじゃないかって思うくらい真っ白で……ものすごく露出が高い上に、透けてる衣装に着替えさせられていた。


 いつもの胸に巻いてる布が丸見えだ。たぶん、巻いてなかったら、胸が透けて丸見えになっていたと思う。スカートと思われる布は足の付け根まで切れていて、足がほとんど丸見えだった。


 セリちゃんの足元には、さっきまで着ていた服が破り捨てられていた。


 こんなのひどい……。ほとんど下着じゃないか……。


「なんだい。無粋なのを巻いてるじゃないか。すぐに斬ってあげようかねぇ」


 ナナクサがカーブのかかった細い剣をすらりと抜くと、くるくると回した。


「……衣装の趣味が最悪すぎ……」


 セリちゃんも眉間にしわを寄せながら、剣を抜いて構える。

 それを見てナナクサは楽しそうに笑うと、芝居がかった身振りで観客たちへ歌うような声で呼びかけた。


「さあさあ、ここに対峙する二人の女は恋敵!

 愛する男を盗った盗られたの泥沼地獄さ! 相手の女を殺せば愛する男は自分のもの……。どっちの女が勝つか、さあお立ち会い!」


 ナナクサの口上が終わると同時に音楽が鳴り始める。キャラバンのメンバーがいつの間にか楽器を持って構えていた。


 先に動いたのはナナクサだった。


 鋭い突きでセリちゃんに迫る。


 それを読んでいたかのように、セリちゃんは踊るように身を翻し、そのままナナクサに斬りかかる。


 ナナクサはセリちゃんの剣を大げさな振りをつけて、優雅にかわす。ナナクサが廻ると、ドレスの裾が、花が咲くように広がった。


 お互いの剣がギリギリでかわされる。


 僕はいつの間にか、その場から動けなくなっていた。


 二人の動きから目が離せなくなっていた。


 殺し合いなんて言ってたから――。


 相手の動きを読んで、間一髪でよけて……真剣な勝負をしてるんだと思ってた。二人は同じくらいの強さで、互角の勝負をしているんだと……。


 だけど……もしかして……。


 二人はただ、踊りを踊っているだけなんじゃないかって、僕は思い始めていた。


 何回も何回も練習して覚えた踊りを、二人で踊っているだけなんじゃないか……。


 それくらいに息がぴったり合っていた。


 なんで音楽と動きがこんなにぴったり合ってるんだろう。


 なんで二人はこんなに相手の動きが分かるんだろう。


 なんでこんなに……殺し合いと言っていたのに、楽しそうに見えるんだろう。


 なんでこんなに…………きれいなんだろう……。


 いつの間にか野次や歓声が声を潜め、誰もが固唾を飲んで見つめていた。


 音楽と、二人の剣の音だけが響く。

 音楽のテンポはどんどん速くなり、それに合わせて二人の動きはどんどん激しくなっていった。

 もう僕の目では、動きが追えなくなっていた。


 強く固い音が鳴る。


 セリちゃんが、ナナクサの剣をはじき飛ばしていた。


 ナナクサの首元にセリちゃんの剣が迫る。

 ナナクサは余裕の笑みを浮かべたまま、両手を上げて無抵抗のポーズだ。


「おや、やるじゃないか。そうだねぇ……70点?」


 ナナクサの剣が宙を舞い、鋭い音を立てて、どこかに突き刺さったとき――あたりが真っ暗になった。


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