piece.5-5
村を出発した僕たちは、お昼過ぎには街に到着して、グートの屋敷の前に来ていた。
屋敷の前には強そうな門番たちがいる。そして門の前には、ごちそうにタダであやかろうとする旅人たちの列が、ずらっと並んでいた。
そして知りたくもないグートの追加情報だ。これはセリちゃんが、夜に村長さんから聞いた話だ。
グートは村の人たちから無理やり脅して食べ物をとっていくだけじゃなく、きれいな女の人も、みんな連れて行って自分のものにしてしまうらしい。
せめて裕福な暮らしができていると分かれば安心だけど、女の人たちは全く屋敷から出してもらえず、どんな生活を送っているのかはさっぱり分からないらしい。
もしかしたら殺されてしまったのかもという噂にもなっている。
自分の奥さんや子供を連れて行かれて悲しんでいる人がたくさんいると言われた。
本当に最低なやつだ。これから会いに行くのかと思うと嫌になる。
まあ、会いに行くのはグートじゃなくて、ナナクサが本命なんだけど。
でも僕は、そっちにも本当は会いたくない。
でもそんなこと言えば、セリちゃんに『留守番!』って言われてしまうから、口が裂けてもそんなことは口にしない。
僕は無意識に、腰のベルトにひっかけてある小さな斧に手で触れる。つながった鎖がチャラリと軽い音を立てた。
朝出発するときにセリちゃんが僕に渡してくれた――セリちゃんの大事な宝物だ。
きっとグートの屋敷には人がたくさんいる。はぐれたら見つけるのがとっても大変だ。これを身につけていれば、もし離ればなれになっても必ず見つけるから――そうセリちゃんは約束してくれた。
セリちゃんの斧の柄にはボロボロになった布が巻きつけてある。だいぶ年季が入った布だった。今度新しい布を巻き直してあげよう。僕はボロボロになった布を指でもてあそびながらなんとなく、そんなことを思った。
グートの屋敷に入るための行列は、どんどん進んでいく。
全員がすんなり入れてもらえるわけではなくて、あきらかにタダ飯狙いの人たちは門番に追い払われていた。
たぶん食べ物が欲しくて、旅人のふりをした周辺の村人もたくさん混ざっているんだと思う。
セリちゃんもこの列に並んで、中に入るつもりらしい。今日の朝、僕に念入りにお化粧して欲しいと頼んできた。ナナクサの仲間に見えるような、踊り子の化粧をしてほしいと。
僕たちの順番が来たころには、もう日が暮れ始めていた。セリちゃんは門番になんて言う気なんだろう。
僕の緊張はピークに達した。
「私の仲間たちはまだこの中にいる? みんなと合流したいの。通るわよ」
セリちゃんはいつもと違って、すごく偉そうな感じで門番の前を通ろうとした。当然、門番はセリちゃんの行く手を阻む。
「おいおい。覚えがねえなあ。嘘ついて入ろうたってそうはいかねえぞ」
門番が疑いの目でセリちゃんと僕を見る。
「踊り子のキャラバンが入っていったでしょ? 中にみんなはいるの? いないの? はっきりしてよね?」
セリちゃんはわざとイライラしたような声を出す。セリちゃんに詰め寄られた門番は、迫力に負けたのか少し後ずさりする。
「なんでお前たちだけあとで来るんだよ。聞いてねえよ」
セリちゃんは珍しく舌打ちをした。
「いちいち言わせないでくれる? 道中で腹を下してたのよ! さんざんあいつら私のことバカにして笑った挙句、向こうの村に置いてけぼりよ! しかもなんなのあの村……食いもんが何一つないじゃないのさ!
おかげでとんでもなくひもじい思いをしたわ! あいつらに目にモノ見せてやらなきゃ気が済まないわ! さっさと中に入れなさいよ!」
すごい。全然セリちゃんっぽくない。これは、もしかして入れるのかな……?
「お前らもタダ飯たかりに来たんだろ? 踊り子だったら証拠を見せてみろよ! 色っぽい衣装に着替えてよぉ!」
門番たちがいやらしい目をしてセリちゃんをからかう。
やっぱり中には入れてもらえなさそうだ。
でも僕は少し安心していた。
中にはあの、ナナクサがいる。セリちゃんにひどいことをしたナナクサが。
話をするだけっていっても、もしまたセリちゃんが大怪我をしたら――。
そう思うと僕は気が気じゃなかった。
このまま帰ろう。中に入れてもらえないんだもん。しょうがないよ。
僕はセリちゃんが諦めてくれるのを待った。
――シャラ……。
軽く、涼やかな音と、風を斬る鋭い音が同時に鳴った。
セリちゃんが剣を抜いて、その場で回転した。回転の勢いでセリちゃんのフードが外れる。
剣が生きてるみたいに、セリちゃんの手の中で踊り、空に飛び跳ね、またセリちゃんの手に戻っていく。
剣の柄についている飾りが、シャラシャラときれいな音を鳴らし、またある時はジャッ! と荒々しい音をたてる。
セリちゃんの足が地面を擦る音も、剣の飾りが鳴る音も、剣の刃が風を斬る音も――すべてが踊りの音楽のように聞こえた。
踊るセリちゃんの顔が怖いくらいにきれいで、目が離せなくなった。
このまま……斬られてもいいから、近づきたいと思ってしまうほどに――。
――チャ。
セリちゃんが剣をしまう。あたりが息をひそめていた。みんながセリちゃんの踊りに目を奪われていた。
「どう? これで満足? 衣装は仲間が持ってるから。色っぽくなくて残念だったわね」
「……あ。ああ……。すげえな、今度もっとちゃんとしたの見せてくれよ」
「今度があればね」
セリちゃんが冷たい笑みを浮かべて門番の前を通っていく。僕はその後ろをあわててついていった。
もしこの人が振り返ったときに、僕の知らない人の顔をしていたらどうしよう。
そんな不安が頭の片隅をよぎっていった――。




