piece.5-4
「私も野盗に見つかって、殺されそうになったときに、団長が助けてくれたの……。団長は、村のみんなの仇を取ってくれた……。
団長は、その日から私のすべてになった。この人のために生きようって、この人の役に立とうって、そう思ってずっと生きてた……」
僕は何も言えなくなった。
セリちゃんにとってのナナクサは、僕にとってのセリちゃんと同じなのかもしれない。
「だけどね、キャラバンもね……全滅したの。みんな……殺されちゃった……」
「だ、誰がそんなこと……?」
僕の袖をつかんでいるセリちゃんの手に、ぎゅっと力が入る。
「団長がやったの……」
「……え?」
僕は話について行けなくなってしまった。
「あの人は『毒』に染まってしまった……。毒があの人を覆い尽くしてしまって……あの人は……仲間だったみんなを……みんなを殺して……嗤ってた……」
「……でも……! だってセリちゃんは生きてるし……! じゃあ、その団長は?」
「…………私が殺したの。団長を」
「……え?」
僕は何を言われたのか分からなかった。
分かりたくなかったからかもしれない。
だけどセリちゃんは、念を押すように、もう一度僕に同じ言葉を言った。
「団長を殺したのは私なんだよカイン……。私は、自分の恩人をこの手で殺したの。
それから私の中には団長の持っていた毒が移ってしまった。……ううん、きっとそれよりずっと前から……。あの人の毒は、とっくに私の中に宿ってた……。
――カイン……私もね、毒持ちなんだ。だから私は、ディマーズに追われてるの……」
セリちゃんが、毒持ち――……。
前にセリちゃんが、ディマーズは毒持ち専門の討伐・更生機関だと説明してくれたことがあった。
なんでそんな人たちが、セリちゃんをお尋ね者にしてるんだろうって、ずっと引っかかっていた。
セリちゃんは、こんなに優しいのに。こんなにいい人なのに。なんで追いかけられなきゃいけないんだろうって。
だけど、セリちゃんが自分で答えを言った。毒持ちだからだって――。
セリちゃんの手に、さらにぎゅっと力がこもる。
「私がこの前見た人は、もちろん私の知っている団長じゃない。たぶん、私以外のキャラバンの生き残りなんだと思う……。
確認したいの。あの人が誰なのか。あの人が私の知ってる人なのか……。
それと…………私は……どうしたら団長の毒から解放されるのか……。
ずっと、その手がかりを探してたの。私から毒を取り除くにはどうすればいいのかを。
あの――団長の名前を名乗るあの人と、もっと話がしたいの……。もしかしたら、なにかヒントが得られるかもしれないから……」
そこでセリちゃんは言葉を詰まらせた。苦しそうな顔をしている。
「セリちゃん……」
そこから先の言葉は何も出てこなかった。僕はまだ頭の中がぐちゃぐちゃで、言われたことが全部整理できていない。
セリちゃんが毒持ち――。
でも、ナナクサに会えば、セリちゃんの毒は消せる……?
そしたら、セリちゃんはもうお尋ね者じゃなくなるってこと……?
セリちゃんは、もう泣いていなかった。僕を安心させるような、穏やかな笑顔で僕の頭をなでてくれる。
「大丈夫だよカイン。危ないことはしないつもりだよ。あの人と話がしたいだけなの。だから――」
「危なくないなら僕がついていってもいいよね? もし置いてったら隠れてこっそり追いかけるから……!」
セリちゃんと離れるのは絶対に嫌だった。僕が必死でセリちゃんに頼むと、セリちゃんは困った顔で笑った。
「――ん。分かった……。そっちの方が何倍も危険だね……。
じゃあ、明日のために今日はしっかり寝ようか。
昔話はこれでおしまいね。聞いてくれてありがとう。……じゃあ、おやすみ……カイン」
そう言うとセリちゃんは目を閉じた。僕の袖をつかんだまま――。
「おやすみ。セリちゃん……」
僕も目を閉じて寝たふりをする。
僕はしばらく経ってから、そっと目を開けた。セリちゃんの手は、ずっと僕の袖をつかんだままだ。
ナナクサを見たときのセリちゃんの怯えた顔を、僕は今でも鮮明に思い出せる。
ねえセリちゃん。ナナクサに会うの、本当は怖いんだよね……?
「セリちゃん、大丈夫だよ。……僕が……ついてるから……」
小声でささやいて。
袖をつかんだセリちゃんの手の上に、もう片方の自分の手を重ねて、それから僕は目を閉じた。
セリちゃんがくすっと笑ったような気がしたのは、お願いだから気のせいであって欲しいな……。
だって、聞かれてたなんて、恥ずかしすぎるから……。




