piece.5-3
僕がどこを向いて寝れば一番緊張しないのか考えていると、セリちゃんがいつの間にか真剣な顔で僕のことを見つめていた。
「ねえカイン……。あのね……」
「やだよ」
僕はセリちゃんが続きを言えないようにさえぎった。
セリちゃんが、次に言うことが分かったからだ。
「僕のこと、ここに置いてくって言うんでしょ。絶対に嫌だよ。僕もついていくから」
セリちゃんは困ったように小さく笑った。
やっぱり僕をここに残して、一人でナナクサに会いに行くつもりだったらしい。そんなこと絶対にさせるもんか。
僕はずっとセリちゃんに聞きたかったことを、思い切って尋ねてみた。
今だったら……聞いてもいいような気がしたから――。
「……ねえ、セリちゃん。
セリちゃんはディマーズだけじゃなくて、もしかして……ナナクサのキャラバンにもいたことあるの?
前に『帰りたい』って言ってたのはナナクサのところ? 刺されたのに? 明日ナナクサに会ってどうする気なの? キャラバンに戻るの?」
セリちゃんは静かに微笑んだ。どこか悲しそうに――。
そして僕の言葉を聞いても驚かなかった。
「……そっか。やっぱり聞こえてたんだね……」
僕がインパスの街で立ち聞きしてたことを、セリちゃんはとっくに気づいていたみたいだった。
「私が帰りたいと思ってる場所は、あのキャラバンじゃないよ。
ただ、私が帰りたいと思ってる場所に帰るためには、あのキャラバンは――というよりも、あのナナクサという人は――避けて通れないって思ってるんだ……。
……カインはまだ眠くない? じゃあ……少しだけ昔話してもいい? 私の昔話……」
セリちゃんがようやく僕に話をしてくれる。僕に会う前のセリちゃんの話を――。
僕は嬉しくて何度もうなづいた。
「私ね、今のカインよりもずーっと小さい子供のときに……団長に拾われたの。そのときの団長の名前がナナクサ。キャラバンの名前も、団長と同じナナクサだった。
今思うと、団長になった人がナナクサって名乗る風習だったのかもしれないね。
そうだなあ、そこで十年くらい過ごしたのかなあ……。そこまでは長くなかったかなあ……。私、踊りが下手でね……いっぱい怒られてたんだぁ……」
「拾われた? セリちゃんって……親は? いないの?」
もしかしてセリちゃんは親なしだったんだろうか。
それで、昔の僕みたいな生き方をしてきて――……。
だから僕に会ったときに、あんなに親切にしてくれたんだろうか。
セリちゃんは不思議な表情をした。微笑んでいるのに、どこか痛そうで、苦しそうな顔だった。
「お父さんもお母さんも……お母さんのお腹の中にいた――私の弟か妹になる子まで……みんな殺されたんだ……。
家族だけじゃない。私の住んでた村の人は、みんな――。
野盗が来て……私は何もできなかった。お母さんが殺されるのを……隠れて見てることしかできなかった……」
セリちゃんの目からは涙があふれてこぼれていた。前に教会で見たときのセリちゃんと同じ顔だ。
優しい笑顔をしながら、その目からは涙が流れていく。
僕の胸が苦しくなった。
トゲみたいなのが、刺さったみたいな感じがする。
自分だけ生き残ってしまったと泣いていた、小さな女の子のことを思い出した。
セリちゃんも、あの子と同じだったんだ――。
でも、分からない。どうしてセリちゃんは泣きながら笑ってるんだろう。
家族を殺されるってこと、ひとりだけ生き残ってしまうこと――――。それが一体どんな気持ちなのか、僕には全然分からなかった。
でも、すごく苦しかった。
息ができなかった。
セリちゃんの気持ちが、僕の胸にどんどん流れ込んできているみたいだった。




