piece.5-2
セリちゃんが村長さんと話をしている間、僕は来局用の小さな部屋でセリちゃんを待っていた。
この部屋にはベッドが一つしかない。
僕が先に寝ちゃったら、たぶんセリちゃんは冷たい床で寝てしまう気がする。
だから僕はセリちゃんが戻ってくるまで、絶対に先に寝ないぞと決めていた。
村長さんと話し終わったセリちゃんが、部屋に入ってくるなり僕を見て驚く。
「カイン……! まだ起きてたの? 寝てて良かったのに……」
「ううん。トーキにベッド使ってって言いたくて……」
一応小さい声で話をしているけれど、念のため『セリちゃん』じゃなくて、『トーキ』の方で名前を呼んだ。
「いいって。カイン、疲れてるでしょ? 先に寝なよ。起きたら交代してくれればいいから」
「僕が朝まで起きなかったら交代できないでしょ。トーキ先に寝てよ。早起きだし、僕が後でいいから」
二人でむぅぅ、と睨み合う。お互いに譲れない戦いだ。
「じゃあじゃんけんで決めよう。勝った方がベッドで寝る。それでいい?」
セリちゃんが提案してくる。
「わかったよ。勝った方がベッドだね?」
僕の中で作戦が目まぐるしくたてられる。
負け狙いじゃんけんだ。セリちゃんはだいたい最初にグーを出す。ということは、僕はパーじゃなくてチョキを出せばいいわけだな……よし!
「じゃーん、けーん……」
ポン! でセリちゃんが出してきたのは、まさかのチョキだ。
――なんだって!?
しまった! 作戦失敗だ! 落ち着け僕。落ち着いて考えるんだ。
うーんと、ということは……。
セリちゃんはいつもグーを出して、僕がパーを出して勝つことが多いわけだから、セリちゃんがチョキを出したってことは普通に勝つ気でやったってことだよね?
勝とうとしてきたってことは、今回は勝ちがベッドってことだから……あー! 普通にパー出せばセリちゃんをベッドで寝かせてあげられたのに!! 僕のバカ!! なにやってんだ、もう!
くそー……次は負けるもんか。……ああ、違うか。負けは譲るもんか。
次の手は完全に未知の世界だ。お互いに何を出してくるか分からない。次の手で勝負が決まる……!
「あーいこーで……」
「あいこってことは二人ではんぶんこだね」
セリちゃんはそう言って、構えた僕の腕をつかんでベッドへと引っ張っていく。
「え? え? え?」
僕はなんだか分からないうちに、すでにベッドの中だ。
目の前にはセリちゃんのいたずらっぽい笑顔。もうちょっとで顔と顔がくっつくんじゃないかって距離にセリちゃんの顔があって、僕は一気に全身が熱くなった。
「こっちが私で、そっちがカイン。境界線はここね、ここ。んで相手の陣地に入ったら罰ゲームだよ。じゃ、おやすみ」
セリちゃんは当然のように、普通に寝ようとする。おんなじベッドの中で。
……む、無理だよ! 近すぎるよ! そんなんじゃ僕、絶対寝れないよセリちゃん……!
おもわず僕の頭の中に、下着姿のセリちゃんがベッドに入って来たときのことがよみがえってしまい、僕はもう完全に目がさえてしまった。
胸がものすごい速さでバクバクバクバクいっている。
……だ、大丈夫かな、この音……。
どうかセリちゃんには聞こえてませんように……!
ああぁぁあ、もうだめだ。もう絶対に寝れない……。寝れるわけない……!
「……あ、あの……っ、僕……もうちょっと眠くなってからベッドに入るから……」
ベッドから出ようとした僕の服を、セリちゃんがつかんだ。そしてベッドにもう一度引きずり込む。
「こらカイン。毛布バサバサしないでよ。寒い空気が入ってきちゃうでしょ。
カインって、すっごいあったかいんだもん。一緒に寝よ、お願い!」
……セリちゃん。さっそく陣地に入ってるよ……。陣地に入ったら罰ゲームなんだからね!
「……分かったよ。もー、セリちゃんたら、大人のくせに子供みたいなんだから、もー……」
僕が照れ隠しをしながら文句を言ってベッドに入り直すと、セリちゃんはすごくうれしそうに笑った。
小さい声で言ったせいかもしれないけど、セリちゃんは「セリちゃん」って僕が呼んでも注意しなかった。
もー……、そんな顔されたら罰ゲームのこと言えなくなるじゃないか。
ずるい、セリちゃんはずるい。ずるすぎるよ!




