piece.35-15
セリちゃんは教会の主であるおじいさんに旅の者であることを告げ、埋葬を依頼した。
寄付という名の埋葬代を支払うと、おじいさんは快く埋葬を受け入れてくれた。
通常は埋葬の時には儀式的なことをするらしい。その儀式の立ち合いを断ったセリちゃんに、おじいさんは少しだけ悲しそうな顔をしたけれど、教会の人たちでやってくれることになった。
「故人の女性の方とは、どのようなご関係でしたかな」
尋ねられてセリちゃんは、目を伏せた。
そして少し間をおいて、はっきりと答えた。
「妹です。親は全然違うんですけどね。
すみません、立ち会うことができなくて……妹を、どうか宜しくお願いします」
深々と頭を下げるセリちゃんの声と表情が、とても穏やかで優しかった。
悲しくなるくらいに――。
教会を出たあと、セリちゃんがお腹が減ったというので屋台で買い物をした。
通りの脇に空いている長椅子を見つけて二人で腰をかける。
何の会話もせず、黙々と屋台で買ったものを食べる。どこを見るでもなく、自然と視線は道行く人たちに向いていた。
ふと、なんとなく気づいた。
僕は今、無意識にシロさんの姿を探していたということに。
絶対に見つかりっこない。
だけど――。
シロさんの気配を感じる。
シロさんが近くにいるような気がする。
でも、きっと今の僕にはシロさんを見つけることはできないだろう。
でも――。
意を決して口を開く。
「ねえ、トーキ……。キキョウさんを殺したのって……」
「兄さまだよ」
セリちゃんははっきりと断言した。
セリちゃんはまっすぐに前を向いたまま、淡々と語る。
「ジェムザを殺したのも、キキョウを殺したのも、はがされたはずの私の手配書がまた貼られていたのも、全部兄さまの仕業。間違いないよ」
セリちゃんの声が硬い。
でもその声は紛れもなく確信に満ちたものだった。
「シロさんは、まだここにいるの?」
「もうさすがにいないんじゃないかな。
もし仮に兄さまがまだマイカにいたとしても、私が追っかけられてた騒ぎで、私が来たことに気づかれたし、そうなったらもう私じゃ見つけられない。
もし見つけられても、今の私じゃ……どうすることもできない」
「でも……ジェムザって人は病死じゃ……」
「いくらでもやりようはあるよ。相手が特定できていればね。街で肩がぶつかったふりして、どこかに針でもさせれば、もう終わりだよ」
「でも、外でいきなり苦しみだしたりしたら」
「いくらでも調節できるよ、そんなのは。
調合次第で相手をいつ死なせるか、どう死なせるかなんて、全部こっちで計算できるから」
「じゃあジェムザは、エイジェンだったの?」
「たぶんね。今思えば、キャラバンにはいつも武器が潤沢に用意してあった。武器商人が関わってたってことなら、すごく納得できる」
「ここから調達してたってこと?」
「ここもそうだろうし、他にも似たような場所があるんだと思う。
よし、休憩終わり。私たちも急がなきゃ。早くアルカナで私の毒を治さないと。
……ダメだね、気を抜くとあの人が出てきちゃう。こんなんじゃ兄さまどころじゃないや」
「ナナクサの声……聞こえるの?」
セリちゃんは微笑むだけだった。
僕はそれを肯定の意味だと受け止めた。
ナナクサにセリちゃんを奪われたくない。
ナナクサにセリちゃんは渡さない。
予告なく唇を重ねても、セリちゃんは怒らなかった。
悲しくなるくらい優しい微笑みを浮かべて、僕を見つめ返す。
ナナクサじゃなくて僕を見ていてほしい。
ナナクサの姿なんか見て欲しくない。
僕だけを見ていてほしかった。
でも、そんな目で僕を見てほしいわけじゃない。
よく分からない悔しさがこみ上げてきた。
「もう、マイカでの用事は終わり?」
僕が尋ねると、セリちゃんは首元の布を鼻の上までたくし上げて腰を上げた。そして布越しに自分の首を指さした。
指さす先にあるのは、リバーさんから取り返した、ドラゴンの鱗で作られたチョーカーだ。
「うん。これを取り戻すのが最急務だったから。これでようやく北に行ける。
ごめんね、寄り道しちゃって。さあ、行こうかカイン」
僕はセリちゃんと並んで歩き出す。
今度こそ北を目指す。
アルカナの謎を解いた、クロムさんの待つ北の山へ――。
第35章 紐帯の藍
<CHUTAI no AI>
〜connection〜 END
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