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ナナクサたちのキャラバンは、このあたり一帯の領主であるグートという人のお祝いの席に呼ばれているらしい。
グートの領内にある小さな村に到着したときに、僕たちはグートが何日も何日も盛大なパーティーをひらいているという噂を聞いた。
噂というか……そのパーティーのために、村の人たちは自分たちが食べるものも我慢して、領主であるグートへ食料をあるだけ献上しなければいけなかった。
だから村ではあちこちに不平不満があふれていて、わざわざこっちから質問をしなくても、グートの悪口は嫌でも耳に入ってきた。
ちなみになんのお祝いをしているのか尋ねてみたんだけれど、グートはすぐに派手なパーティーをひらくことで有名なやつで、いったい今回は何をお祝いしてるのかは誰も知らなかった。
グートがパーティーをするたびに、まわりの小さな村では飢えて死ぬ人が出るらしい。
だけど食べ物を渡すのを断ると、グートの雇っている怖い兵士たちが村の人たちにひどいことをするから誰も逆らえない。他の村では殺されてしまった人もいたらしい。
僕が前に住んでた街でも、食べ物の奪い合いで殺されたやつがいた。
でもそれはお互いに、食べるものがなければ死んでしまうからだ。
自分が生きるためには、相手のことなんて考えてるような余裕はない。必死で抵抗しているうちに相手が死んでしまった。ただそれだけのことだった。
まさか領主なんてお金持ちの人までそんなことをしてるなんて驚きだったけれど。
僕がそのことをセリちゃんに話すと、セリちゃんは僕の頭をなでながら強い口調で言った。
「お金がいくらあってもさ……、心が飢えてる人間ってのは、人のものを奪わないと気が済まないんだよ。最低だね……」
だから僕は、そんなひどいグートというやつに『さん』付けはしない。そんな最低なやつは呼び捨てで十分だ。
そんなわけで僕たちが立ち寄った村では、みんな食べるものがないので、宿屋も食堂もみんな閉まっていた。
その反対に旅人は、珍しい一芸を見せてパーティーを盛り上げたり、旅先で見つけた珍しいものをグートにプレゼントすれば、そいつの大きなお屋敷で泊めてもらえて、ごちそうも食べられるらしい。
領主の屋敷へ行くことをすすめられたけれど、僕とセリちゃんは無理を言って、村長さんの家へ泊めてもらった。
僕もそんなやつの家で泊まるなんて、まっぴらごめんだった。
泊めてもらったお礼に、僕たちの持っていた麦と干し野菜、木の実なんかを分けてあげた。
村長さんと村長さんの奥さんはとても喜んでくれて、実はこっそり隠し持っていた、とっておきの葡萄酒を僕たちに飲ませてくれた。
初めて飲んだ葡萄酒は、ちょっと苦くて酸っぱくて、なんだか大人の味がした。




