piece.35-14
「セリちゃん、持ってきたよ。服はドアのところに置いておけばいい?」
ドア越しに声をかけると、少し間をおいてセリちゃんの声が返ってきた。
「そうして。……ありがとうカイン」
服をドアの前に置いて振り返ると、ラノフィンさんが椅子を勧めてくれた。
「座んな二代目、ひどい顔してる。蜂蜜酒でも飲んでろ。俺は近くのギルドに頼んでくるから。……頼むな」
あ、お酒はちょっと……と思ったけど、もう用意してくれてたみたいだから厚意に甘えていただくことにする。
お湯割りにした蜂蜜酒の甘さと温かさ、そしてほんの少し加えられた香辛料のスパイシーな香りが、こわばった体を緩めていく。
思わずほっと息がもれた。
ラノフィンさんが出ていく直前で、奥の部屋からセリちゃんの声が呼び止めた。
「場所なら西の通りの裏道にある魔道具屋のリバーの店の裏だよ。そこまで行けば臭いで分かるって伝えて。
あと、ここには連れてこないでね。あいつの顔見たら、今度こそ殺しちゃうから」
僕とラノフィンさんは無言で見つめ合った。
ラノフィンさんは奥の部屋へ近づき、ノックをして中にいるセリちゃんへ声をかける。
「大丈夫か初代、治療を先にした方がいいか?」
「そんなことより、ここの教会ってお金を払えば住人じゃなくても埋葬してくれるかなあ?」
「……ああ、たしか街道寄りの教会は旅の道中で亡くなった人たちの埋葬を受け付けてるって聞いたことがある」
「言われてみればあったかも。じゃあちょっと、あとで行ってくるよ。
……もちろん勝手に出ていかないから。ラノフィンが戻ってくるまでちゃんと留守番してるよ。引き止めてごめんね。いってらっしゃい」
僕とラノフィンさんはもう一度顔を見合わせる。
ラノフィンさんはしばらく悩んだみたいだけど、僕に『任せた』と一言告げると、他のギルドへ協力を求めに出ていった。
・・・
ラノフィンさんが戻ってくるとすぐ、セリちゃんがキキョウさんを抱えて部屋から出てきた。
もう怖い顔はしていない。
でも雰囲気はピリピリしたままだった。
「セリちゃん、重いでしょ? 僕が運ぶよ。それと、街に出るなら、一応顔隠した方がいいよ、トーキ」
あえて偽名で呼んだことで、セリちゃんは少し冷静になったみたいだった。
しばらく悩む素振りを見せたけれど、僕にキキョウさんの体をそっと任せた。
亡くなった人の体は、想像していたより、ずっと重たかった。
「首……斬られてるから、あまり動かさないように運んであげて」
そう言われて思わず僕の視線がキキョウさんの首に落ちた。
さっき巻かれていた布とは別のものが巻かれている。淡いピンク色の布がスカーフのように首元を飾っていた。
言われなければ、この布が斬られた傷を隠しているものだなんて誰も気づかないと思う。
キキョウさんの顔は、眠っているように穏やかだった。




