piece.35-12
「ねえ、私のこと知ってる? 私ね、お尋ね者でね、さっきまで手配書がいっぱい貼られてたんだぁ。なんでお尋ね者になったかわかる?
それはね、人をたくさん殺したから。いっぱい、いーっぱい、殺したんだぁ。
でもね、私いつも言われてたの。相手を殺すってことは、自分も殺される側なんだってことを忘れるなって。
殺すのも殺されるのもお互い様。殺す以上は殺される覚悟を持てって、殺すたびに言われてたんだぁ。
……ねえ、私があなたに何を言いたいのか、わかるかなぁ?」
僕からはセリちゃんの後ろ姿しか見えない。
僕の位置からはグレイブの姿は部分的にしか見えない。
大きく足を広げ、投げ出されたグレイブの骨ばった足が見える。
セリちゃん越しに、死人のように血の気を失い、まばらな歯をガチガチ鳴らして震えているグレイブの顔が見える。
「だからあなたも、こういうことをするってことは、同じことをされてもしょうがないってことだと思うんだぁ。
……どうする? 死んでからがいい? 生きたままがいい? どっちがいい? 選んでいいよ。聞いてあげるかは分からないけど」
子供をあやすような口調でセリちゃんはグレイブに語りかけていた。
でも、その声に温かさは何もない。
水の流れる音がする。
ブレイブが失禁して気を失ったようだ。
尿に血液が混ざって、床に広がっていく。
異臭がさらに強くなる。
僕の中で目まぐるしく記憶が駆け巡った。
ナナクサ。
シロさん。
髪飾りが揺れる音。
目をむき出して悶える貴族。
甘い匂いと甘い声。
セリちゃんが――ナナクサになってしまう。
止めなきゃいけないのに体が動かない。
声が、出せない。
「なんだ……もう気絶しちゃった……」
感情のこもらない平坦な声でセリちゃんがつぶやいた。
必死で喉から声を絞り出すと、ようやく口から音が出せた。
「セリ……ちゃん……」
「大丈夫。殺してないよ」
セリちゃんは振り返らずに冷たく答えた。
まるで僕の言葉を遮るかのように。
その声のあまりの冷たさに、僕はまた何も言えなくなる。
セリちゃんは自分のフード付きのマントを脱ぐと、キキョウさんの体を包みこんで大切そうに抱きかかえた。
「カイン、キキョウをディマーズの詰所に連れてく。両手が塞がっちゃうから、もし誰か私に絡んでくるようなら、代わりにやっつけて」
それはもちろんそうするつもりだけど……。
「セリちゃん、重いでしょ? 僕がキキョウさんを運ぶよ」
セリちゃんは首を横に振った。
「……私に、連れて行かせて」
その低い声はわずかに震えていた。
僕は黙ってセリちゃんに先を譲った。
その時に大の字になって体を晒しているグレイブの姿が嫌でも目に入った。
下腹部に突き立てられたナイフ。
胸は上下しているから、死んではいない。でも――……。
「殺してないよ。大丈夫。殺してない」
セリちゃんは低い声でそう繰り返して、小屋から出ていった。




