piece.35-11
※この回と次の回には残酷、不愉快と感じる性描写及び加害描写があります。苦手な方はご注意ください。
裏口から路地を抜け、そう遠くない場所にグレイブという人の住処があった。
ただし、住処といってもそこは家ではない。
廃材や布を寄せ集めて作った仮設小屋のようなところだった。
近くに来ただけで分かった。
死臭がする――。
独特な異臭が鼻をついた。
この臭気のせいだろう。付近に人の気配はなかった。
セリちゃんは大きく息をつくと、その小屋のおそらく入り口と思われる場所へと乗り込んでいった。
「お、おい! なんだてめえ!」
中の住人から抗議の声が上がるのを聞きながら、僕もセリちゃんに続いた。
そして思わず目をそらした。
全裸の女性が横たわっていたからだ。
死の臭いが濃くなり、息をすることが苦痛になる。
目に入ってしまった光景が、この臭気と混ざり合って、じわじわと吐き気に姿を変えて僕を襲う。
グレイブは死んだ女の人を犯している真っ最中だった。
死体特有の土気色の肌と、首にだけ巻かれた布切れの色の鮮やかさが、女性の姿をこの場で不釣り合いに浮かせていた。
その女性に覆いかぶさる痩せぎすのグレイブの姿は、まるで死体に群がる虫のように思えた。
そして――僕の見間違いじゃなければ――その死んでいる女性の顔には見覚えがあるような気がした。
変わり果ててしまっていたけれど――僕の思い違いでなければその人は――。
キキョウさん……に、よく似ている気がした。
「その子、私の知り合いなの。今すぐ返して」
セリちゃんの声がわずかに震えていた。
セリちゃんの言葉で僕の予想は当たってしまったことが判明する。
外れていて欲しかったけれど……やっぱり、僕の目の前に横たわっている裸の死体は、紛れもなくキキョウさんの亡骸だった。
「ふざけんな、これを拾ったのは俺だ。欲しけりゃ……」
グレイブはセリちゃんに顔面を蹴り飛ばされ、ひっくり返った。
その直後、聞き慣れた音が聞こえて、僕はここにシロさんが来たのかと思った。
刃物が流れるような速さで抜かれる音――。
その後に続く、鈍い音。
シロさんを無意識に探していた。
でもここにシロさんはいない。
「返してって言ったの。聞こえなかった?」
聞こえるのはシロさんの声じゃない。
セリちゃんの低い、わずかに震えているような声。
僕の目に映るのは、死んでしまったキキョウさんと、セリちゃんの後ろ姿……そしてそのセリちゃんの背中越しに見える、大の字にひっくり返ったグレイブの痩せた体くらい――。
シロさんはいない。
グレイブの口から表現できないほど下品で、激しく、哀れな悲鳴があふれ出す。
「これでもう、必要はないよね?」
セリちゃんのナイフがグレイブのどこに刺さったのか分かった瞬間、僕の背中を冷たいものが走っていった。
気分が悪くなり、どうやって息をすればいいのか分からなくなる。
気がついたら僕はその場に座り込んでいた。




