piece.35-10
「鞭の代金には多すぎたんならさ、オマケでちょっと教えてほしいの。最近マイカで不審な死に方をした金持ちとかっている?」
リバーさんはセリちゃんの払った代金に大満足のようで、さっきまで首を絞められていたっていうのに上機嫌だった。
「不審な死に方限定か? そうは言ってもな……最近ここらでくたばった金持ちって言えば武器商人のジェムザだな。でもあいつは病死だって聞いたぜ」
「なんの病気? いつから病気だったの? いつ死んだの?」
セリちゃんはジェムザという人をエイジェンだと疑っているようだった。
もしジェムザがエイジェンなら、殺したのはシロさんかもしれない。
「あー……どうだったかな、悪いもんでも食って当たったのか、原因はよく分かってない感じだったな。
日に日に弱っていって、最期は眠るようにくたばったらしいぞ。殺しても死ななそうな爺さんだったが、歳も歳だったからな。死んだっておかしくはない。眠るように死んだらしいから、アンタの期待してる死に方じゃねえわな」
アドリアの死に方とは全然違う。
なら、きっとシロさんは関係ない。
「死体ってまだ新しい? 埋葬したのっていつくらい?」
「お、おいっ! 墓を暴く気か? いくらアンタでもそりゃあマズいって! やめとけって、グレイブじゃあるまいし」
「グレイブ? 誰? 墓暴きの名人でもいるの? 紹介してよ」
「そういうんじゃねえよ。やつは死体専門の追いはぎだよ。この辺は行き倒れが多いからな。……ああ、そういえば最近、金持ちじゃねえけど、グレイブが若い女の死体を拾ったって喜んでたな」
「若い女の死体? 死因は?」
「刺し傷。この辺じゃ見ない女で、いい体してんだってさ。首の傷だけ隠しとけば十分使えるって喜んでたぜ」
使えるって、どういうことだろう。
死体を何かに使って商売でもしてる人なのだろうか。
「ふーん、ねえそのグレイブってやつの居場所教えてよ」
「どうしたんだよ、アンタまで死体に興味津々だなんてよ。さっきから気になってんだが変な趣味にでも目覚めたのかい?」
「死体に興味があるんじゃなくて、私が追っている相手が殺したのかどうかが気になるだけ」
「へー、追われる側から追う側かい? アンタ本当に変わりもんだな。ディマーズに追われてたと思えば、ディマーズに戻ってまた出てきたり。いいねいいね、俺としてはアンタがまた珍しい土産を持って帰ってくんのを楽しみにしてるぜ」
セリちゃんがリバーさんにグレイブという人の居場所を説明してもらっていると、店の入り口のドアを叩く音がした。
『あれ~? リバ~? なんで鍵かかってんの~? 開けてよ~!』
ドアが開かないらしい。
見てみたらなぜか鍵が締まっている。
僕が開けてあげようとすると、セリちゃんが小さな声だけれど、とても強い口調で僕を止めた。
「開けないでカイン、裏から出るよ。リバー、裏口使わせてね。
私たちが出て行ったら鍵開けて」
セリちゃんがフードを深くかぶり直し、首巻を口元いっぱいに持ち上げる。
どうやら店の鍵はセリちゃんが締めていたらしい。
「お尋ね者は終わったんじゃないのかい?」
不審そうにリバーさんがセリちゃんを見る。
「それがいろいろ手違いがあってさあ、もう賞金出ないのに賞金首のままなんだよね〜」
「なんだそりゃ、アンタ本当に変わってんな」
狭い店内をかき分けて店の奥へと抜ける。
僕が裏口のドアを閉めるか閉めないかのタイミングで鍵があいて、表口からお客さんが入って来た音が聞こえた。
『んも~、いるならいるって言ってよ~。留守かと思って焦ったよ~』
『すまんすまんレヴァーミ。うっかり鍵開け忘れてたみたいだ。ところで最近忙しいみたいだな』
『そうなんだよ~、依頼主の注文が多くてさ~』
店内のやり取りを聞きながら、隣でセリちゃんが小さく笑う音がした。
「今入って来た人、もしかして知ってる人?」
なんとなくそんな気がして尋ねてみると、セリちゃんが優しく目を細めながら返事をする。
「そ、よく分かったね。ただね、今顔を合わせちゃうとちょ~っと面倒だから、今は会わない方がいいんだ。そのうちね、また会ったらカインにも紹介するよ」
その表情で分かった。
きっと僕らのあとで店に入ってきた人は、いい人なんだって。




