piece.35-9
僕の脳裏に、いつか見た夜の光景がよみがえる。
大きなドラゴンの羽音、巻き上がる火の粉。夜を明るく染めた真っ赤な大地。
真っ黒な闇の中へ、きらめく赤い光たちが空へと昇っていた。
翌朝目にした跡形もなく焼き尽くされた大地。そこには骸の欠片一つ残っていなかった。
「リバーが素直に返してくれたらさあ、私がその子に謝るだけで済むからさあ、悪いこと言わないから返してくれないかなあ? リバーさあ、マイカに家族だって住んでるんでしょ? みーんな燃えちゃったら嫌でしょ?」
脅しであってほしい。
あの時みたいにここを焼き尽くすなんて、そんなことをセリちゃんが本当にするはずなんてない。
だってここには住んでる人がたくさんいる。あの時の村には死んでる人しか――。
でも僕は思い出す。
セリちゃんの他にも炎に映っていた人影を。
……野盗たちが来ていた。
村を襲った野盗たちを、どういう方法で呼び出したかは分からないけれど、セリちゃんはあの場に集めたんだ。
その野盗をセリちゃんが殺したのか、生きたままドラゴンの炎に焼かれたのかは、もう僕には知る由もない。
僕の表情を見たリバーさんが、両手を上げて降伏のポーズをとった。
「……分かったよ。返すよ、返せばいいんだろ?」
鞭から解放されると、すぐに首からチョーカーを外してセリちゃんに渡す。
店の薄暗い灯りが反射して、小さな鱗がキラキラと不思議な光を放っていた。
「ありがとうリバー。リバーならそう言ってくれるって信じてた。
んじゃ鞭の代金払うね、これくらいでどう?」
セリちゃんがカバンから取り出したのはお金ではなく、ちょっと変わった石のようなものや、金属の欠片のようなものだった。
セリちゃんから解放してもらったリバーさんは、力尽きたように椅子へ倒れこんだ。
そしてセリちゃんの代金をじっくりと鑑別した後、非難の目をセリちゃんに向ける。
「…………アンタさあ、これだけくれんなら普通に俺からチョーカー買い戻せばいいだろ?
なんなんだよ。脅してみたり喜ばせてみたり。こっちは体が持たねえよ。ひでえ女だな、アンタ」
僕にはガラクタにしか見えないけれど、リバーさんにとったら貴重なアイテムだったらしい。雰囲気から察するにかなり高価なもののようだ。
「あはは。まあそれはそれ、これはこれってね」
セリちゃんはいたずらっぽく笑う。
その表情からはもう、ナナクサの気配が消えていた。
いつものセリちゃんに戻って、僕は一人でほっとしていた。




