piece.35-8
「リバーのね、首に無理やり巻いてるやつ……そろそろ返してもらおうと思ってさ」
セリちゃんの口から、低く甘い声がもれる。
その声を聞いて、僕の頭の中では嫌でもナナクサの格好をしているシロさんの姿が浮かんでしまう。
「ん? ああ、よく俺が巻いてるって分かったな。調節用の金具で細工してギリギリでなんとか俺の太い首にも巻けたんだ。器用だろ。
アンタの紹介だって言う女から、すげえ高い金だして買い取ったんだぜ? いくらアンタといえどもこればっかりは金積まれても売れねえ……ぐえっ」
セリちゃんが首にかけている鞭を絞め上げた。
「ねえリバー、私はね……売れなんて言ってないよ。返せって言ってんの。ちゃんと聞いてた? ねえ、返す? 返さない? どっち?」
首を締めあげられて顔が赤くなっているリバーさんが苦し気にうめく。
「アンタ……俺から……奪いに……来たってわけか?」
「だぁ、かぁ、らぁ……奪うじゃないってばぁ。『返せ』って言ってるの。
そもそもこれ、いくらで買い取ったの? 私に売れって言ってた時の金額と全然違ったから、話を聞いて驚いたんだよぉ。ずいぶんと人の足元見てさぁ、だいぶ買い叩いたんだってねぇ。
リバーのこと信用してたのになあ。そんなひどい商売してるなんて聞いてショックだったなあ。売った人も怒ってたよぉ。ねえ。悪いこと言わないからさあ、私にそれ、素直に返した方がいいよ?」
「ふざけ……っ、金……っ、払え……っ!」
赤黒く変色した顔でリバーさんが抵抗している。
「返してくれないんだあ。じゃあしょうがないなあ。前にチョーカーを売っちゃったって鱗の主に話したら、すごく怒っちゃって村を山ごと焼き尽くしちゃったんだよねえ。
そっかあ、じゃあもうマイカの街は燃えてなくなっちゃうのかあ。いい街だったのになあ、残念だなあ」
「う、鱗……ぬ、し……? 何、言って……っ」
「マイカまで情報が広まってるか分からないけど、南の方の村をね、山ごと焼いちゃったんだよね、あの子。
マイカに寄ったら返してもらうから待っててねって謝って許してもらったんだけど、リバーが返してくれないなら正直に言うしかないなあ。マイカにいるリバーって魔道具屋のおじさんが返してくれないんだあって」
セリちゃんは鞭を緩めてあげたらしい。
苦しがっていたリバーさんの顔色が戻っていく。でも今度は血の気が受けたように白くなっていく。
「あの子って……? アンタ……まさか……この鱗のドラゴンと……っ」
「うんそう、仲良しなんだよねー私。今リバーが首に巻いてるチョーカーに、びっしりついてる小さな鱗をくれたドラゴン本人と。
もうすっかり大きくなったから、子ども扱いすると怒るんだよね、その子。
ちなみにね、ドラゴンの吐く炎って一種類じゃないんだよ? リバー、知ってた? 人間なんか一瞬で消し炭にされちゃう炎もあるんだけどね、実は焼かれてるのになかなか死なない炎もあるの。
その炎で焼かれるとね、自分の体が焼け焦げてく痛みと熱さと苦しさをずっとずっと感じながら、炭になって消えるその時までずーっとずーっと苦しさを味わうんだってさ。すっごく痛くて熱くて大変なんだって。
そのチョーカーをず~っと持ってたら、きっとリバーはもうすぐその炎で焼かれる体験させられちゃうかもねえ」




