piece.35-7
箱の中には黒くて太い紐が編まれたものが入っていた。
「アンタ鞭は使えるかい? これは雷獣の皮で編まれてある特注品だ。この鞭はな、ある程度の衝撃を与えると稲妻を走らせることができる。使いこなせれば打撃以外にもしびれを与えることができるらしい。そしてもちろん鞭だからな、アンタのリクエスト通り、殺傷力自体はたいしてない。痛いは痛いがな。
ま、さっきも言ったが鞭は使い方が難しい。致命傷も与えない分、武器としてのメリットはほとんどない。完全に道楽者の道具だな。まさかアンタがこんなの欲しがるとは思わなかったよ。まさかそういう趣味かい?」
セリちゃんはリバーさんの説明を聞いている間、鞭を手に取り、じっくりと見つめ、その強度を確認する。
「ちょっと試し打ちさせてもらってもいい? 奥使わせてもらうね」
セリちゃんはリバーさんの返事も待たずに鞭をつかむと店の奥へと行ってしまう。
慌てたリバーさんがセリちゃんに声をかけた。
「おい! 買うつもりがねえなら商品に傷つけんなよ!」
……しまった。リバーさんと二人きりになってしまった。
こ、怖い……。
無性に居心地が悪くなり、店内に隙間なく並べられた怪しい商品を見渡すことでごまかす。
「あの、ここって武器屋……ですか?」
「うんにゃ、ちょっと違うな。ここはまあ俗にいう、魔道具屋ってとこさ」
「魔道具屋?」
「あのお尋ね者の姉ちゃんが持ってるディマーズの鎖も、腰に下げてる白い細身の剣も、ちびっこい斧も、ああいうのを全部魔道具っていうのさ。
簡単に言やあ魔力が宿った金属で作られた武器――そういうのも魔道具の一種ってやつだな。
それと……お前さんが首にぶら下げてんのも、ずいぶんとレアものの気配がするな。ちょーっとだけでいいから見せてくれよ」
リバーさんの目に、暗い光がともる。
嫌な予感がして、僕は反射的に手首に仕込んだナイフをいつでも取り出せるように身構えた。
セリちゃんからもらった首飾りは見えないように服の下に隠れている。それなのに気配で気づかれるなんて思わなかった。
絶対に見せない方がいい。
僕の直感が告げていた。
リバーさんの瞳は、欲にくらんだ人の眼をしていたから。
「リバー……」
気配なく現れたセリちゃんが、鞭でリバーさんの首を後ろから絞めていた。
「うお! やめろよ! 後ろから忍び寄るな! びびっちまったじゃねえか! 悪ふざけはやめろ!」
セリちゃんはリバーさんの首から鞭を離さないまま笑顔で言った。
「リバー、この鞭使いやすかったから買うよ。いくら?」
「お、そうかい? あんた鞭の使い方なんてどこで習ったんだよ。すげーな、ははは。
……なあ、それより俺の首から鞭を離しちゃくれねえか?」
後ろから首を絞められているから、リバーさんからセリちゃんの表情は見えない。
反対に、僕は声を出すことができなかった。
冷たく、暗く、妖艶にも見える笑みを浮かべたセリちゃん――。
ナナクサを彷彿とさせるその微笑みに、僕は息をすることも忘れるほどに魅入られてしまった。




