piece.35-5
にぎやかな喧騒から離れて、僕たちは街の貧困層の居住区までやってきた。
前にシロさんとセリちゃんの行方を追っていた時に情報収集に来ていた場所にも近い。
この辺りは無法地帯。
人目を気にせず、奪ったり殺したり犯したりが日常の世界だ。
街の手配書をはがして回っているうちに、首の後ろがピリピリしてくる感覚が強くなっていった。
ずっと誰かに見られている。それも一人じゃない。
どこで襲われてもいいように、僕はいつでも動ける準備をしていた。
明らかに荒くれ者しか集わないような酒場に入る。
薄暗い店内の壁には、賞金首の張り紙がずらり。
でも店の客の方がよっぽど賞金首に見えてしまう。一人や二人くらい賞金首本人が酒を飲んでいてもおかしくなさそうだ。
躊躇なく店の中へと入ったセリちゃんは、席にはつかずにまっすぐ手配書コーナーに向かう。
端から順番に眺めていき、念願の自分の顔とご対面だ。
「よし、これで最後だね」
ラノフィンから渡された、手配書設置場所のメモと見比べる。ここがマイカの街で貼られた最後の一枚だった。
そして自分の顔が描かれた手配書を乱暴に破り捨てると、酒場の空気が一変した。
「おい! お前なに勝手にはがしてやがる! 誰だ! 面見せろ!」
「その女! 賞金首のブラッド・バス本人だ! 全員で囲め! これだけいりゃあ、いくら元ディマーズだろうと勝ち目はねえ! やっちまえ!」
また乱闘が始まる。
僕はセリちゃんと背中合わせに立って身構えた。
ディマーズの制服を着ていれば、きっとこんな余計なことはしなくていいんだろう。
だけど余計な荷物は増やしたくないと言って、セリちゃんはディマーズの制服をリリーパスに置きっぱなしにしている。
それに手配書はがしだって、本当は人気のない時間帯を狙ってこっそりはがす方が人に見つからなくて、こんな余計な手間はなかったはずだ。
僕はまだ詳しく事情を聞いてないけれど、もともと敢えて目的地とは反対方向のマイカに立ち寄ったのは、セリちゃんの『どうしても外せない大事な用事』を済ませるためだった。
遠回りした分、もたもたはしていられない。
早く用事を済ませて北に行かなくては。
そんな理由もあって僕たちは強硬手段に出ている。
ただし今回は人数が多い。
出口を完全に塞がれた室内。完全に周囲は敵だらけ。人数は20人……いるか、いないか。
僕とセリちゃんで10人ずつか……。
さすがに少し苦戦しそうな気がした。
セリちゃんがフードを外し、不敵な笑みを浮かべる。
「残念だけど、この賞金首はもう売り切れなの。私をディマーズに連れてっても小銭1枚もらえないから。ご愁傷様」
「間違いない! やっぱりこいつブラッド・バス本人だ! 賞金いただきだぜ!」
「だから! 聞きなさいよ! 私はもうブラッド・バスじゃないんだって……ば!」
セリちゃんの声と同時に、強い衝撃波のようなものを感じた。
それとともに突然僕の呼吸が苦しくなり、体に力が入らず、膝から崩れ落ちる。
なんで? なんで突然こんな……。
それにこの感じ、どこかで……。
霞む視界の中では、店中の男たちが僕と同じように倒れている。
「見てカイン! レミケイド直伝、一撃で全員やっつけ攻撃……って、あれ? カインも巻き込んじゃった? ごめーん、やっぱり私には力加減も狙い範囲もうまく調整できないや。
やっぱ見様見真似ってダメだね。あはは」
そんな中、一人だけ元気そうなセリちゃんの声がする。
セリちゃん、前にレミケイドさんがやったやつを真似したかったんだね。
レキサさんもピンチの時に使ったって言ってたしね。
確かに強い技だと思うよ。敵の数が多いなら使った方がいいと思う。
ただしレミケイドさんやレキサさんならね。
やっぱりさ、使うんだったらさ、ちゃんと練習して、ちゃんと倒す相手を選べるようになってから使おうよ。
いきなり使ってさ、僕まで倒しちゃうのはさ、ちょっと無計画にも程があると思うんだ。
また『皆殺しのセリ』ってあだ名で呼ばれちゃっても知らないよ?
一応、ディマーズのみんなには黙っといてあげるけどさ。




