piece.1-4
お腹がいっぱいになるというのは、こういうことだったのか……。
僕は苦しくなったお腹をさすって、壁にもたれかかった。
これならしばらく食べ物がなくても生きていけそうな気がする。
「カインは一人でここに住んでるの?」
セリちゃんが残ったパンをていねいに包んで、カバンに片づけながら僕に質問してきた。
「ううん。レネーマと二人で住んでる。家は汚くて狭いけど、一応ちゃんとあるよ。今日はたまたまここで寝ただけ」
「レネーマっていうのはお姉さん?」
「ちがう。僕を生んだ人だから、たぶん『お母さん』って人だと思う」
セリちゃんは不思議な顔をした。
僕は昔にレネーマから言われたことを、セリちゃんに説明してあげた。
「レネーマをお母さんって呼ぶと殴られるんだ。『コブ付きだと思われると足元みられて金が稼げなくなる』って」
「……カインは、レネーマが好き?」
セリちゃんがまっすぐに僕の目を見る。
その目は、僕をゴミ扱いする人たちとはまったく違う。でも、いったい何が違うんだろう?
セリちゃんは、とてもキレイな目をしている。
レネーマの目は…………うーん、セリちゃんに比べるとすごく濁っている気がする。
僕たちがいつも飲んでいる飲み水みたいな感じ。
セリちゃんの目は――そうだ、空の色だ。
手を伸ばしても届かない――すごくきれいな青い色だ。
僕はなんだかセリちゃんの目が見られなくなって、セリちゃんから顔をそむけた。
「……わかんない。でも僕はレネーマがいないと、生きていけないんだ。子供だから……」
「私と来る?」
セリちゃんが何を言ってるのか分からなくて、僕はもう一度、セリちゃんのことを見た。
きれいな目が、まっすぐに僕を見ていた。
セリちゃんの目の奥は、きっと空につながっていると思う。
「――あ。私、そういえばお尋ね者だったね。ディマーズっていう怖い人たちから逃げ回らなきゃいけないんだった。
カインを巻き込むわけには……いかないね」
セリちゃんはとても優しくほほえんだ。
「きっと、もうすぐ私を追ってディマーズがこの街に来るよ。
でもきっと、この街にとってはその方がいい。ここは毒だらけだ。私もここには長くいられない」
「毒?」
そうたずねた僕に、セリちゃんは笑って僕の頭をなでてくれた。
「そう、毒。カインはすごいね。こんなに毒にまみれた街にいても、全然毒の影響を受けてない。
本当は体の調子が悪いから、ちゃんと休みたかったんだけど……この街は人が多すぎて良くないな。
私、そろそろこの街を出ないと。じゃあね、カイン」
「待ってセリちゃん」
僕は思わずセリちゃんを呼び止めた。
胸がドキドキしている。何かを言わなくちゃ。
でも頭の中がぐちゃぐちゃで、自分が何を言いたいのか、僕はさっぱりわからなかった。
でも、セリちゃんが僕の言葉をずっと待ってくれたおかげで、僕はなんとかこれだけ言うことができた。
「セリちゃんが休めそうな場所……あるかも」