piece.35-4
ディマーズの出張所には、簡易的な宿の代わりになるような部屋もあった。
そこにはちょっとした着替えも用意してあるので、セリちゃんは顔を隠すための首巻きを勝手に拝借することにした。
久しぶりのお尋ね者ファッションで街を歩くセリちゃんへ、僕は懐かしい名前で呼んでみた。
「その格好懐かしいね、トーキ」
「うん、まあね。でも、私は懐かしいっていうよりも、不思議って感じが強いかな。
前にカインからトーキって呼ばれてた頃は、カインってすっごくちっちゃかったし、すっごく子供って感じだったから……今そう呼ばれると、なんかちょっと変な不思議な感じ」
そりゃあさ、たしかに背は低かったよ。へなちょこだったし……。
今はあの頃に比べれば筋肉もついたし、背も伸びたしさ、そりゃあさ、今に比べればそりゃ前は小さかったよ。だからセリちゃんの言ってることは分かるよ。
だけどさ、そんな『すっごくちっちゃい』まで言われるほど小さかった?
そこまですごく昔の話でもないわけだしさ。
しかも『すっごく子供』ってなに?
もしかして今でもまだ僕のこと、まだまだ子供だと思ってたりする?
……面白くない。
子供扱いされるのは不本意だ。僕はもう子供じゃない。
抗議の意味も込めて、僕はセリちゃんに仕返ししたくなった。
だからセリちゃんの口元の布越しにチューをする。
「今は僕の方が背が高いもんね。ここまで簡単にすぐ届くし」
思った通り、セリちゃんの顔が真っ赤になった。
「……カ……カイン、こら! そういうことを人の許可なく突然しちゃダメでしょ! お行儀がよくない!」
ふーん、まだそうやって僕を子供扱いするんだね。
「分かったよ、じゃあ今からもう一回チューするから目、閉じてよ。あとその邪魔な布も下げて」
セリちゃんがあわてて口元の布を上に持ち上げて、両手ガードをしたまま顔もそむける。完全防御の姿勢だ。
「こんな人が多いところでしちゃいけません」
「ほら。言ってからしようとすると嫌がるじゃん。だから隙をみてするしか方法ないじゃん」
「い、嫌がってるわけじゃなくて……状況とか場所を考えてって言ってるの」
セリちゃんが弁解のためにこっちへ顔を向ける。僕はすかさず畳みかけた。
「じゃあどういう時と場所ならいいの?」
「えーと、……例えば……」
「はい、隙あり」
布で顔を覆ってなければ口に直接チューできるんだけど、今は外だし、お尋ね者(仮)だし、仕方なく布越しのチュー2回分で我慢する。
「こら! カイン! いい加減にしなさい! お行儀が悪い!」
「はーい、ごめんなさーい」
僕は全然悪いと思っていない口先だけの謝罪をしながら、セリちゃんのお説教から逃走した。
だってしょうがないじゃん。
僕を子供扱いするセリちゃんが悪いんだから。
・・・
例によって、ときどき遭遇する賞金稼ぎをやり過ごし、ずらっと並ぶ手配書の中から怖い顔で睨んでいるセリちゃんの顔をはがした。
「なんか……はがし忘れっていうより、ほとんど貼りっぱなし状態なんだけど。
こんなことってある?」
文句を言いながら手配書をはがし回っていたセリちゃんの声に、さすがに困惑の色が混ざり始めた。
セリちゃんの手配書と隣同士に並んでいるのは、ナナクサの格好をしたシロさんの手配書だ。
並びで考えても、どう考えたってナナクサの手配書を貼るときにセリちゃんのをはがすのが自然なはずだ。
だってナナクサの手配書を貼る時点で、セリちゃんはもう賞金首ではなくなっていることはディマーズのみんなは知ってるはずだから。
はがし忘れにしてはあまりにも不自然だ。
きっとセリちゃんも感じているはずだ。
この、妙な嫌な予感を――。




