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流転するアルケウス ~inherited Meme~  作者: イトウ モリ
第34章 葬斂の黒 〜disaffection〜
395/414

piece.34-15



 アドリアの事件以降、リリーパスでは大きな事件は起きていない。


 そもそもリリーパスでは事件すら起きたことにはなっていない。表向きは。


 アドリアは――死体が無傷だったこともあり――病死として処理された。


 リリーパスきっての資産家でもあり慈善家でもあったアドリアの葬儀は盛大に執り行われた。


 街中が悲しみと、その死を悼む声で包まれていた。


 その一方でハギさんの葬儀は、家族だけで隠れるようにひっそりと済ませたらしい。


 僕もセリちゃんも、あとでカシアさんから知らされるまで、葬儀があったことにすら気づけなかったくらいだ。


 それと、メトトレイさんとレキサさんが誘拐されたときに使われた家の持ち主が、しばらく経って旅行から帰って来た。


 その人が言うにはディマーズの制服を着た若い男が、「任務で使用するのでこの家を貸してほしい。しばらくこれで旅行でもしてくれ」と言って大金を渡してくれたそうだ。


 もちろんその家主が見たという人物で、ディマーズのメンバーに該当する男性はいなかった。

 でも僕にはそれが誰だかすぐに分かった。


 僕はそのことをレミケイドさんだけに伝えた。

 そして、こう付け加えた。


 シロさんはディマーズの制服を手に入れていると。


 ……ねえ、シロさん。


 いつから計画していたの?

 どこからどこまでシロさんの計算通りなの?


 シロさんが考えていたことに、僕は一緒にいても何ひとつ気づくことができなかった。


 ずっと一緒にいたのに。

 同じ時間を過ごしていたのに。


 僕はシロさんのことが何も分かっていなかった。

 きっと、なんとなく分かったような気になっていただけだったんだ。


 シロさんとの距離を、嫌というほど思い知らされる。


 僕がどれだけシロさんに会いたいと思っていても、シロさんが僕に会いたくなければ会えない。


 主導権はいつだってシロさんが握っている。


 僕はいつだってシロさんに振り回されている。


 今だって、シロさんが近くにいるような気がするのに……。


 シロさんを探し回っている僕を見て、どこかで笑っているような気がする。


 シロさんの気配を時折感じることがあるけれど、でもきっとそれは僕の思い込みなだけかもしれない。


 だって、僕が思うシロさんは、僕が勝手に思い描いているだけのシロさんでしかないのだから。





 レネーマから服が完成したと連絡があった。


 僕とセリちゃんがリリースの街を発つ準備が整った。


 アルカナの謎が解けたという、クロムさんに会うために、僕たちは北へ向かう。




 服を受け取りに行く道すがら、僕とセリちゃんは、ハギさんのお墓へ寄ることにした。


 花屋で花束を買い、カシアさんに教えてもらった墓地へと向かう。


 花と緑に囲まれた、静かで小さな墓地。


 ごくごく普通の人たち用の墓地でハギさんは眠る。

 普通の人たちと同じように。

 雑草としてではなく、普通の――ただの人として、家族の生活する街でゆっくりと眠りについている。


 「……先客が来てたみたいだね……」


 セリちゃんが僕にそう声をかけながら花束を墓碑に供える。


 その横に一輪、白い花が無造作に置かれていた。

 数日前に摘まれたものらしく、すでに花はしおれている。


 ……シロさんなのかな。


 ふと、そんな気がした。

 でも確証はない。


 隣で目を閉じているセリちゃんに習い、僕も目を閉じて祈った。


 でも僕は神様がいるのかどうかなんて知らない。


 ただこういう時に、何かに祈るものだということだけは知っている。


 だから祈った。

 


 どうか……。

 どうかもう『ナナクサ』が生まれませんように。



 もう誰かを雑草扱いしたり、人殺しをさせるようなことが起きませんように、と――。


第34章 葬斂の黒

<SOREN no KURO>

〜disaffection〜 END


 <黒の章> 完

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