peace.4-9
朝起きると、僕のベッドの足元に靴があった。今まではいていた靴じゃなくて新しい靴だ。そしてなぜか片方だけ……。
「あれ? この靴……もしかして本当に小人が? でもなんで片方だけ?」
セリちゃんが笑いながら、驚いてる僕のことを見ている。
「小人の靴屋は体が小さいから、一晩で一足しか作れないんだよ。明日になればもう片方できるんじゃないかな」
――え? 嘘……。
……ってことは……!?
「……セリちゃん! この靴! 本当に小人が持ってきたの? セリちゃんが頼んでくれたの? あれ夢じゃなかったの?」
「こら、トーキって呼びなさいってば。
レプラホーンに会ったんだね。いたずらされなかった?」
セリちゃんは僕が間違ってセリちゃんって呼んでも、ニコニコ笑って返事をしてくれた。
やっぱり小人が言ってたとおり、セリちゃんが頼んでくれたんだ。夢じゃなかったんだ!
僕は嬉しくなって、新しい靴をギューッと抱きしめた。片方だけしかないけど。
「いたずらはされなかったけど、そういえば、靴が完成したら踊りを教えてくれるって……」
「それはダメ!」
セリちゃんがすごい勢いでかぶせてきた。
「どうしたのトーキ、そんな怖い顔して……」
「……カイン。あのね……これは私の知り合いが体験した話なんだけどね……」
突然セリちゃんは不気味な暗い笑みを浮かべて、低い声で語り出した。
急に部屋が暗くなり、遠くでゴロゴロと雷が鳴りだした。
「仮にAさんにしておきましょうか……。Aさんは偶然、小人たちと知り合いになったんですね。
小人はAさんに親しげに話しかけ、『満月の夜に一緒に踊ろう。迎えに行くよ』と約束しました……」
「え、何ちょっと言い方怖いよ! なに!? 怖い話!?」
僕は思わず、ベッドの上で靴を胸に抱えたまま身構えた。
「Aさんが小人に言われたとおりの場所に向かうと、そこは暗〜い森でした。やだなあ怖いなあ。Aさんは思いました。
すると、森の中がピカッ! ピカッ! と光ったんですね。
はてなあ、森が光るなんて変だなあ、おかしいなあ、変だなあとAさんは不思議に思いましたが、体が勝手に光を追いかけるように森へと入って行ってしまったのです……」
セリちゃんがピカッ! ピカッ! と言ったタイミングで、雷が本当にピカッ! と光ったので、僕は思わず悲鳴をあげてしまった。
怖い……。怖すぎるよぉ……。
「……うぅ……。それで? Aさんはどうなっちゃったの……?」
「Aさんは小人たちと一緒に踊ったんですね。クルクルクルクル、輪になって踊ったんですね。でもなんだかおかしいなあ、変だなあ、Aさんはだんだん苦しくなってきたんですね」
「え!? なんで!?」
聞きたくないなあ、怖いなあ、でも続きも気になるなあと思いながら、僕はセリちゃんの話に耳を傾けた。
「苦しいなあ、辛いなあ、息ができないなあって思ってるうちにですね、そのうち気がスゥーっと遠くなってですね、Aさんは意識を失ってしまったんですね」
「え!? Aさんはどうなっちゃったの!?」
「Aさんが目を覚ますと、そこは自分の部屋だったんですね。しかしAさんの体は、まるで石になったかのように全く動かないんですよ……。それでAさんは思ったわけですよ。
おいちょっと待てよ、ってことは昨日の夜の小人は自分を苦しめるために踊りに誘ったんじゃないのか? そう思った瞬間、ゾーッとしたんですよね。
ああ、小人の呪いなんだなって思いましたね。だから小人に踊りに誘われても行ったらいけないっていう話なんですよ……。なんでも、踊りに誘われたまま帰ってこない人もいるんだとか……。
あるんですねえ、こういうことって……」
セリちゃんはそう言うと、ふふふ……と暗い微笑みを浮かべた。
僕の背中に冷たい汗がツツツーっと流れていった。
「……分かった……。絶対に行かない……」
僕はそう決心した。




