piece.34-8
ディマーズで習う基本の動きは、シロさんに教わったことと近かった。
相手の関節のとらえ方や、動きの封じ方、そういう基本的なことは共通する部分が多い。
違うのは、その後にとどめを刺すか刺さないかということ。
ディマーズではとどめを刺さない代わりに、どうやって相手を拘束するか――そんな訓練が多かった。
シロさんから技を教えてもらっていた時、僕はアスパードを殺すことだけを考えていた。
アスパードさえ殺せれば、そのあとはどうなろうと知ったことかと思っていた。
今は違う。
傷つけずに済むのであれば、誰も傷つけたくない。
僕が未熟であればあるほど、人を傷つける可能性が高くなる。
僕がセリちゃんを傷つける可能性。
そして僕がセリちゃんを抑えられなくて、セリちゃんが誰かを傷つけてしまう可能性。
さらに人を傷つけてしまったことで、セリちゃんが傷つく可能性。
誰も傷つけないために、僕は強くならなくちゃいけなかった。
熟練のディマーズのメンバーたちは、ほとんど相手を傷つけることなく拘束する。
一緒に訓練するようになって、ディマーズの人たちの凄さがようやく分かってくるようになってきた。
今日の訓練が一段落し、セリちゃんと僕とで後片付けをしているとレミケイドさんが訓練場に顔を出した。
「まだいたのか。疲れたからといって湯に浸かりながら寝るのはやめてくれ。またアダリーが騒ぐ」
「今日は出血してないから大丈夫ー! ブラッド・バスにはしませんよーっだ!」
汗で濡れた前髪をかき上げてセリちゃんがレミケイドさんに文句を言う。
でもレミケイドさんが注意してるのはそういうことではないと思う。
「セリちゃん、ここの片づけは僕がやるから先にお風呂行っちゃってよ。男風呂は今の時間混んでるし、僕はもう少し時間潰してから行くつもりだったから」
ディマーズの男女比的に男風呂は混んでいる。
みんなと仲良く話をしながら湯に浸かるのも好きだけど、ゆったり足を伸ばしてのんびりしたい日もある。
今日はどっちかといえばそういう日だ。
「え? そう? じゃあそうさせてもらおうかな。ありがとねカイン」
セリちゃんが出ていってもレミケイドさんはこの場に残っていた。
僕は片づけの手を止めて、レミケイドさんへ尋ねる。
「もしかして、このあと、ここ使いますか?」
あんまりレミケイドさんが訓練場にいるイメージはないけれど、たまには体を鍛えることもあるのかもしれない。レミケイドさんと一緒に訓練する人ってどんな人だろう。
もしかしてメトトレイさんだったり?
それはちょっと興味があるから見学させてほしいかも。




