piece.34-5
ひとまずの戦利品をもって、僕たちはいったん店に戻ることにした。
本当はまだ裏地とか留め具とか、細かい物を含めていろいろ必要らしいけれど、それは後日でいいらしい。
ずっと黙って歩いていたけれど、店が見えてきたころ、レネーマがふいに口を開いた。
「あんたは父親似かと思ったけど、ずいぶんと強かになったもんだよ。外でずいぶんといろいろ揉まれたのかもしれないけどさ」
レネーマが何の話をしているのか、すぐには分からなかった。
「え? 父親似って……僕の? 僕の父親?」
レネーマの口から僕の父親の話が出たのなんて、たぶん今まで一度だってなかった。
そんな話を耳にしたことなんて、僕は一度もない。
だから自分に父親がいるなんてことを考えたことがなかった。
それとも、今思えば――そこらへんにいるゴミが自分の父親かもしれないなんて思いたくなくて、わざと考えないようにしていただけかもしれない。
「どんどん似てくる。今なんて若い頃のライドックにそっくりだ」
疲れたような、伏し目がちなレネーマの表情は、僕がセリちゃんやシロさん、カシアさんを通じて見てきた表情と似ていた。
僕の胸が、つん……って詰まったように苦しくなる。
「ライドック? それが僕のお父さんの名前?
ねえ、その人、どんな人だったのか、聞いてもいい?」
レネーマは僕から視線を外し、店がある方向へ顔を向ける。
「良くも悪くもお人よし。人が困ってると手を出さずにはいられない。……そんな男さ」
レネーマの声に元気がなかった。
「どうしていなくなったの?」
レネーマの足が止まる。
そこから、長い長い間があった。
大きく長いため息と共に、レネーマの口から言葉が出る。
「働きすぎで、おっちんじまったのさ。生まれたばっかのあんたのことも、あたしのことも置いてけぼりにしてね……。一人でぜーんぶ抱え込んで死んじまった……そんな大バカ野郎なんだ、あいつは……」
僕に背を向けているレネーマの声が震えていた。
「レネーマ……」
「あたしが都会に行きたいなんて言わなきゃ、きっと今だって生きてたかもしんない。あたしなんかと結ばれなけりゃきっと今頃、もっとまともな女と幸せに……っ」
「レネーマは……すごく好きだったんだね、ライドックのこと」
レネーマが真っ赤な顔で振り返って僕に怒鳴った。
「バカ! あいつと同じ顔でそういうこと言うんじゃないよ!」
レネーマが照れて赤くなっていた。
目が赤くなっているのが分からなくなるくらいに、顔が真っ赤になっていた。
不思議な感覚だった。
怒鳴るレネーマはいつも、僕にとって大きすぎて、絶対的で、恐怖の対象でしかなかった。
でも僕はもう、レネーマに怒鳴られても怖くない。
照れて怒るレネーマと向き合いながら、僕は微笑んでいられた。




