piece.34-2
そんな僕たちの気まずさを吹き飛ばすような明るい声でセリちゃんは注文をする。
「レネーマさんこんにちわ。実は今度北に向かう用事ができたので、防寒着を作ってもらおうと思ってお邪魔しました」
「北? これからの時期だとかなり冷えるじゃないか。なら……毛織物か。ちょうど行商が顔を出していったばかりなんだ。まさかこんなすぐ客が来ると思わなかったから帰しちまったよ。採寸しながら待ってな。そいつ、とっ捕まえてくるから」
レネーマはお店の人たちに採寸の指示を出すと、店の外へと飛び出していった。
「あーあ、レネーマったら。金もないのに買いに行っちまったよ。はりきりすぎじゃないか」
店に残った女の人はあきれた顔をして笑っている。
女の人の話を聞くと、通りがかりの行商は、この店を一目見るや『商売相手にならない』と捨て台詞を吐いたことでレネーマと口論になったらしい。
セリちゃんが笑いながら僕に革袋を手渡してきた。
「ねえカイン、レネーマさんについて行って、いい布があったら買ってきてくれる? 私とカインの二人分だから結構重たいと思うし、運ぶの手伝ってあげて。はいこれ、必要なお金。
もしこれで足りなかったら、店の人に料金はディマーズのセリ宛に請求してって伝えてくれる?」
「え? なに? え? 僕? 僕が行くの?」
「私、先に採寸してもらってるから。お願いね」
あれよあれよと言いくるめられ、僕はお金を持ってレネーマを追いかけることになってしまった。
レネーマがどっちへ向かったのか分からないなりに、なんとなく勘で大通り方向に追いかけてみると、往来のど真ん中でレネーマと行商のおじさんが言い争っているのを発見した。
「だから! 金はあるから売れって言ってるじゃないか!」
「はん! あんなボロ店でどんな客が来るってんだ! モノだけふんだくろうとしたってそうはいかねえぜ! どうせ売るなら高く買ってくれる店に売らせてもらうね! 商売の邪魔なんだよ! さっさと離しやがれ!」
どうやら商品を売ってもらえないらしい。
「どういうのを買うつもりなの?」
僕が二人の間に割って入ると、行商のおじさんに睨まれた。
「なんだガキ、お前なんかの小遣いじゃうちの商品は買えないんだよ。うちの商品はもっと羽振りのいい店に売るもんなんだからな! 大金持って出直してきな!」
「これくらい渡されて来たんだけど、これでも無理そう?」
僕はレネーマに革袋を見せた。
ジャラっと重そうな貨幣の音が鳴り、行商のおじさんの目の色が変わる。
レネーマも硬貨の音に目を見開きつつも、吐き捨てるように言い放った。
「普通の毛織物なら、これだけありゃあ十分さ。釣りがくるよ。まあ、この男の売ってるもんは高級品らしいしね。市場でもっと良心的な値段のを見繕って、いいもん作ってやるよ。
貧乏人は貧乏人なりの知恵と工夫でなんとかするしかないからね」
なるほど。そんな高級品なら仕方ない。
だいたい北の山は険しいらしいから、きっとすぐボロボロになってしまう。
高価なものだと気を使ってしまうし、安くて丈夫な服の方がありがたかった。
「じゃあ市場で買うんだね。なら荷物持ち手伝えって言われたからついてくよ」
僕とレネーマが市場に向かおうとすると――。
「待った! 待った! なんだよ、金持ってんじゃないかよ。冷やかしならお断りだけど買うなら売るさ、当たり前だろ?」
行商のおじさんは明らかに態度を変えると、荷物を広げて説明を始めた。




