piece.33-9
僕のいらだちは、セリちゃんにも伝わっていた。
「……うん。念のためメティさんには立ち会ってもらったけど、失敗してたら、たぶん毒に飲まれて戻れなくなってたと思う。
もしメティさんが助けてくれたとしても、私の体力だと、まだメティさんの本気の治療を受けられるほどじゃないから。
治療に体が耐えられなくて死んじゃってたか、完全に毒で暴走した私を始末してもらってたか……そのどっちかだったかもしれないね」
どうしてそんな重大なことを僕は今になって聞かされているんだろう。
でもこの怒りはセリちゃんに向けたものではなくて、自分に対しての怒りだという自覚はあった。
そうなるような結果にしてしまったのは、僕の提案のせいだ。
僕がセリちゃんに、シロさんを助けて欲しいって頼んだから。
「それ、どうして先に教えてくれなかったの?」
どうしても責めるような声になってしまう僕に、セリちゃんは優しく目を細めた。
「もし先に言ってたら、カインは私を止めたでしょ? もし私が死ぬかもしれないって分かったら、きっとカインは私に兄さまを助けてほしいなんて言わなかった。
……でしょ?」
「……それは……」
セリちゃんの方が大切だから。
セリちゃんに死んでほしくなかったから。
セリちゃんが死んでしまったら、僕に生きる意味なんて、なくなってしまうから。
でもそれを声に出してしまったら、シロさんを見捨ててしまうような気がして、怖くて言葉にすることができなかった。
「すごく嬉しかったの。頼ってもらえて」
セリちゃんは本当に嬉しそうに笑っていた。
「頑張れるって思えたの。カインと兄さまのためなら、団長と向き合うことにも耐えられるかもしれないって思えた。団長に取り込まれずに、ちゃんと向き合えるって。
頑張って向き合って、何度も何度も思い出した記憶はね、今はもうただの記憶なんだ。思い出しても私の中にいる毒にも反応しない。
思い出せた団長は、私にとってただの思い出になった。
もちろん、どうしてもまだ思い出せない部分もあるけど……。
でもね、自分のためだけにだったら、絶対に無理だったんだ。怖くて向き合おうなんて、絶対に思えなかった。
だからね、カインに頼ってもらえたから頑張れたんだよ。ありがとう」
お礼を言われても、素直に喜べなかった。
「でもそれ、すごく危険なことだったわけでしょ?」
そうならそうって先に知っておきたかった。
僕の提案のせいで、セリちゃんを危険な目に遭わせてしまうなんて。
結果的に、無事だったから良かったものの、一歩間違えば、今頃セリちゃんはどうなっていたか分からなかったかもしれないのに。




