piece.33-8
セリちゃんは、顔をしかめた僕を見て、申し訳なさそうに眉を下げた。
僕が嫌なことを思い出したことが伝わったからだろう。
「ごめんごめん、そうなっちゃうよね。
だから本来ディマーズでそういう対象を治療するときには、基本的には心理的安全性に配慮して、過去と同じような状況を作らないようにしたり、過去の関係性に近づいてしまうような人物を避けたり、過去を思い出しそうな環境から物理的に離したり、要は慎重に慎重に治療していくの。それがセオリーといえばセオリーなんだけど」
なんとなくセリちゃんが僕から目をそらし、顔をぽりぽり掻き始める。
「だけど?」
「まあ私の場合は避けようがなくなるわけだし、これからどんどんそっち側に突き進まなくちゃいけないわけ。だからそんな安全に配慮した悠長な治療なんてやってらんないわけなんだよね。
そもそも私の毒そのものが、団長の記憶と直結してるというか……だから、今までの治療がイコール団長のことを考えたり思い出さないようにすることだったわけだし。
つまり、団長の記憶を封じ込めることが、私の毒の治療の核だったんだよね。
だけどこの先、そうやって過去の記憶に蓋をし続けていたら、いつ出てくるか分からない再現症状に怯えなくちゃいけないわけ……つまり従来の方法を選んでたら、その解決ができないわけ。つまり、セオリーから外れなくちゃいけないわけなんだよね。だから……」
早口でまくし立てるように説明していたセリちゃんの歯切れが徐々に悪くなる。
僕には薄々どういうことか分かってきた。
「だから?」
「……えーと、つまり……急に思い出してもびっくりしないくらいに、もうこれでもかってほど毒まみれな過去の記憶にどっぷり浸かったら、とりあえず再現症状には動じなくなるかなあ……って思ったわけで」
ぽりぽりと頭を掻きながら、セリちゃんは完全に僕と目を合わせないような方向へ顔を向けて話している。
僕が状況を理解したことが分かったらしい。
「わけで?」
じろっと睨む僕から視線を泳がせるセリちゃん。
「……つまり……まあ、なんというか、団長の毒に飲まれるギリギリまで自分の毒の中に沈んでみたというか、えーと、言い方が良くないな……。んーと、つまり、団長との記憶を思い出せるだけ思い出してみた……その結果がこういう感じというわけで……。
気をつけてても、つい団長に似ちゃうのは……やっぱり……まあ、ずっと憧れてた人なので……つい仕草を真似てしまうというか……気をつけてはいるんだけど……毒に飲まれてるのとはちょっと違うんだってことを分かってほしいというか、なんというか……」
セリちゃんはしゅんと頭を下げる。
僕が怒ると思っているからだ。
もちろん僕は怒ってる。
とても大事なことなのに、全部終わってから聞かされてる。そのことに対しては。
「……それ、すごく危険なことなんだよね?」




