piece.33-7
カシアさんと別れた僕たちが歩き始めてすぐに、巡回中のディマーズのメンバーが声をかけてきた。
「よっ、初代。体調は?」
「こんな感じ。問題ないよ」
セリちゃんは肩をすくめて答えている。
その言葉の通り、キキョウさんやカシアさんと話をしていても、セリちゃんが毒で苦しんでる雰囲気は何もなかった。
でもそれは逆に、セリちゃんがナナクサの毒と同調してしまっているからのように僕には思えていた。
キキョウさんと話していた時のセリちゃんの声――。
あの時の声を思い出すと、まだ背中が寒くなる。
あのセリちゃんは、完全に僕の知らない人だった。
「セリちゃん、本当の本当に大丈夫なの?
なんか……やっぱり前と違うよ。無理してない?」
ディマーズのメンバーがいなくなったタイミングで、僕はついに我慢できずに言ってしまった。
「前と違う? どんな感じに違う?」
正直に言おうかどうしようか悩んだ。
僕の指摘が、セリちゃんに悪い影響を与えてしまったら良くない。
でもこのままにしておいて、どんどん事態が悪い方向に行くのも嫌だった。
「なんていうか……その……ナナクサっぽい……というか……」
「……そっか。そうなっちゃうか」
セリちゃんは驚かなかった。
やっぱりセリちゃん自身にも自覚があるらしい。
本当に今の状態のセリちゃんは大丈夫なんだろうか。
メトトレイさんが許可を出したってことは危ない状態ではないはずだと思いたい。
僕の態度を見て、セリちゃんが苦笑する。
「ああ、ごめんごめん、カインには心配させてばっかりだね。
そういえばカインには説明がまだだったもんね。
ねえカイン、前に再現症状が何かって聞いてたよね? まずはあの説明からしていこうか」
僕としてはうなづくしかない。
「あれはさ、自分の心の準備ができてないタイミングで、忘れていた怖い記憶や嫌な記憶が突然飛び出してくることによるショックみたいなものなの」
「ショック?」
「そう。すごい衝撃なんだよ。過去の記憶が、今まさにもう一度自分に起きてるみたいに感じてしまうの。二度と味わいたくない過去を、もう一度体験してしまう。そのことによって起きる大きな拒絶反応。それを再現症状と言うの。
さらに私の場合は、それが起きると自分の中にいる毒まで暴れだしちゃうとっても困ったオマケつき」
「過去を……もう一度体験する……」
自分の過去を思い出しかけて、すぐにやめた。
二度と味わいたくない過去の記憶なんて、思い出したって何の得にもならない。
でもこうやって考えるのをやめようと思えば、僕の場合は思い出さずに済んでいる。
でももし思い出したくなくても、もう一度同じことを体験しているかのような鮮明な記憶が勝手によみがえってしまったら――。
それは、当然のことだけれど、想像したくもなかった。




