piece.33-4
ナナクサのことを話すセリちゃんは、目を離した隙にどこかへ消えてしまいそうなくらい危うい。
ちゃんと手を握っていないと、ナナクサにセリちゃんの心が奪われてしまいそうで、僕は不安になった。
「シロさんがね、それと同じようなことを言ってたよ」
シロさんの名前を出すと、セリちゃんははっとしたように僕を見た。
シロさんはセリちゃんにとって、ナナクサと反作用をする存在だと思う。
シロさんの名前を出すだけで、セリちゃんの心がここに帰ってきてくれる。
セリちゃんの中にいる毒と戦うには、シロさんの助けが必要だ。
だから、早くシロさんも毒から救い出さなくちゃいけない。
そんな焦りを感じながらも、僕はセリちゃんにシロさんの言葉を伝える。少しでもナナクサが遠ざかるように。
「シロさん言ってたよ。セリって名前は使うなって、あれほど言ったのにって」
セリちゃんは眉を寄せ、考え込むように下を向いた。
「……兄さまは――……あの時どこにいたのか、私覚えてないの……。兄さまも殺されちゃったんだとばかり思ってたくらいだから……」
「僕が前にそのことを聞いたときは、たまたま出かけてたって言ってたけど……シロさんに直接聞こうよ。きっとシロさんは、全部知ってるんだと思う。そんな気がする」
僕がそう言うと、セリちゃんはほっとしたように表情を緩めた。
「……うーん……でもなあ……聞いても、素直に教えてくれる人じゃないんだよねえ……」
「あは。言えてる」
僕とセリちゃんは顔を見合わせて苦笑する。
でも、ようやくセリちゃんが笑ってくれた。
「お茶、冷めちゃったかな」
ポットに触れるとまだ温かかった。
「ん……まだあったかいよ。お菓子も食べよっか」
会話もなく、お茶に口をつけた。
いまさら他愛もない話題を出す気にもなれなくて、黙ってお茶を飲む。
そこへ――。
「またお会いしましたね」
突然声がかかった。店の中からカシアさんが顔を出した。
「あれ? カイン、知り合い?」
「アドリア……さんの、ご家族の……カシアさん……」
僕の声は嫌でも警戒に固くなる。
一方セリちゃんは、驚くことにカシアさんへ椅子をすすめていた。それもさっきまでキキョウさんが座っていた席に。
「さっきまで一人いたんですけど、お茶を飲む前に帰ってしまったんです。良かったらお茶とお菓子をご一緒しませんか? ちょっと冷めちゃってますけど」
「よろしいのですか? ちょうど喉が渇いていたもので、ご一緒させていただいて光栄です」
カシアさんが優雅な仕草で椅子にかけた。
セリちゃんは使われていなかったカップにお茶を注ぎながら、カシアさんに視線も合わせないまま声をかけた。
「店の中で、私たちの話を聞いてましたね?」
驚いた僕をよそに、カシアさんは平然とうなづいた。
「あなたも、気づいていて話をしてましたね」
お茶を並々注いだカップをカシアさんにすすめながらセリちゃんは言う。
「どう出るのかなって、興味があったので」
カシアさんはお礼を言ってカップを受け取ると、一口飲んでから僕に向けて微笑んだ。
「昨日、私はあの場で嘘を言いました。私は主人と父を殺した相手を憎んでいると。
本当は、感謝しています。父を殺してくれて、そして……あの人を救ってくれて、ありがとう……と」
僕はカシアさんを見つめた。
疲れた表情は昨日と変わらない。
でも昨日より幾分、目元が穏やかで優しかった。




