peace.4-7
僕はスープの底に沈んだ豆の粒が魔法で消せたらいいのになーと思いながら、ちびちびとスープを飲んでいた。
でもそろそろ僕が豆を残そうとしていることに、セリちゃんが気づくかもしれない。
お腹いっぱいだって言って許してもらおうかな……。でもなぁ、ハムのカナッペを食べ終わった後で、豆も残さず食べなさいって言われたら嫌だしなぁ。
最後に食べて、いつまでも口の中に残ってくれる味は、豆よりは絶対にハムがいい。
いつまでも豆の味が口の中に残ったままなんて最悪すぎる。
嫌だけど豆を一気に口に入れて、口直しのハムで飲み込むしかないかなぁ。
僕がそーっとセリちゃんの様子をうかがうと、セリちゃんの顔がちょっと怒りモードになっていた。
やばい! 豆を残そうとしたこと、もうバレてる!?
「ト、トーキ……?」
僕が言い訳しようとするのを、セリちゃんが手で制した。静かにしろと言うことらしい。
どうやらセリちゃんは、誰かの話を盗み聞きしているみたいだ。
……豆のことじゃなくてよかった……。
僕はホッと胸をなでおろした。もちろん、セリちゃんにバレないように、こっそりと。
僕も食事を続けるふりをしながら、セリちゃんが誰の話を聞いているのか聞き耳をたてる。
「……ここから西の森か……?」
声を潜めた男の声が聞こえた。
声の主は僕の後ろのあたりに座っているらしい。さすがに振り返って見るわけにはいかない。
「……そうだ。やつら金を隠し持ってるらしいぜ。それにな、この先の金持ちがそいつら自体を破格で買い取ってくれるらしい……」
「は? あんな小さいやつら、買い取ってどうするんだよ」
「奴隷にしてるらしいぜ。小さいから人間様より場所を取らねえしな、狭い部屋に押し込んで、飯も食わせず死ぬまで働かせてるらしい……」
「へーえ、金を奪っただけじゃなく、そいつらを売った金でも稼げるわけか……。へえ、おもしろそうな話だな。
なあ、どうやって捕まえるんだ?」
「それはな……」
そこからはさらに声が小さくなってしまったので、僕には続きが聞こえなかった。
奴隷とか、死ぬまで働かせるとか、ひどいことばかり言いながら笑っている……。
最低だ。……あいつらもシロさんみたいだ。
僕はスープの豆をスプーンでかき混ぜながら、セリちゃんの表情をうかがう。
でもセリちゃんは僕の方を――正確には僕を通り越した後ろの男たちの方を――向いたまま、スプーンを持つ手が止まったままだ。
もしかしたら、セリちゃんの耳には話が聞こえているのかもしれない。
……すごいなあ。僕よりも離れた場所にいるのに。セリちゃんって、耳がいいのかな……。
きっとまだ話しかけない方がよさそうだ。
セリちゃん……この話を聞いて、何をする気なんだろう……。
僕は胸騒ぎがし始めてきた。
そして、この真剣モードのときのセリちゃんは、きっと刺激しない方がいい。絶対そうに決まってる。
たぶん僕のことを見てるわけじゃないと思うけど、豆を残さないか見張られてるみたいで僕としてはすごく居心地が悪い。
僕は息を止めると、スープに残った豆たちをスプーンで集めて口に入れた。
ギュッと目をつぶって一気に噛み潰すと、残りのスープで飲み込んだ。
もちろん最後に残しておいたハムでの口直しも完了だ。
よし! がんばったぞ……!
セリちゃんに褒めてもらえなかったので、今日は自分で自分を褒めることにした。




