piece.32-9
「兄さまを……助ける……?」
僕が詳しく説明しようと口を開きかけたところを、セリちゃんは手ぶりで僕へ黙るように合図した。
そのタイミングで用を足しに行っていたジセルさんが戻ってくる。
「いやー、悪かったな、抜けさせてもらって……あれ? 初代、ちょっと顔がすっきりしてるな。俺がいない間に、なんかあったか?」
ジセルさんもセリちゃんの雰囲気の違いに気づいたらしい。
ジセルさんの言葉を聞いて、僕は自分の考えが正しいという確信を深めた。
「ふふっ、カインといるとね、私の毒、大人しくなるんだよ」
セリちゃんがうまくごまかしてくれる。僕もそれに便乗して発言する。
「それ僕も前にレミケイドさんに言われたことあるよ。もしそうだったら嬉しいな」
シロさんのことは迂闊に話すわけにはいかない。エイジェンに逆に利用されてしまう可能性もある。ディマーズが全面的に味方になってくれると保証できないうちは、この話を出すわけにはいかない。
「あ、レミケイドで思い出した。【理屈屋】の続きね。や、や……【優しさが分かりにくい】。はい、【い】ね。ジセルの番」
「えー? また【い】~? そればっかじゃんかよ。い、い、【嫌味ったらしい】! ほらよ、次は初代が【い】な!」
「うわ、【い】で返してきた。い、い、い、【いつも無表情】、【う】」
「う、う、う、【上から目線】! ……あ、やべ。今の待った!」
「待ったなし。はーい、ジセルの負け~」
謎のレミケイドさん(悪口)しりとりの勝負は決着がついたらしい。
ちょっと楽しそうだけど、参加しているのをレミケイドさんに知られるとすごく気まずいし怖いから僕は混ざれそうにない。これに参加できるのはレミケイドさんと対等の関係でいられる人しか無理そうだ。
そこへメトトレイさんが一人で部屋に入ってきた。
カシアさんの見送りが済んだようだ。
「ごめんなさいねジセル、お留守番させてしまって。
あら、セリさん起きてたのね。……あらあら、ずいぶん顔色が良さそうなのは、カインくんとお話ができたからかしら?」
どこか探るような表情のメトトレイさんに、セリちゃんは目を細めて返事をする。
「そうみたいです」
セリちゃんの言葉に満足そうにうなづくと、メトトレイさんは今度は僕に向き直った。
「そう、ならちょうどいいわ。カインくん? もう警戒しなくていいから、隠さないで全部しゃべってくれないかしら?」
とても優しい笑みを浮かべているのに、有無を言わせない圧があった。この圧力はレミケイドさんの比じゃない。
圧倒されて声が出せなくなっている僕に、メトトレイさんは更に追い打ちをかけてきた。
「ナナクサに会ってきたのでしょう? あなたからナナクサの毒の気配がするから隠しても無駄よ。私、本人と会ってるんだもの。ごまかせないわよ。ねえ、セリさんも当然気づいたでしょ?」
セリちゃんは肩をすくめて返事をする。
僕から、シロさんの毒――?
二人が気づけるほどの毒なのに――なんで僕はアスパードの時みたいに、毒の気配に気づけなかったんだろう。
それ以上に、シロさんが今にも毒に飲みこまれてしまうのではという不安が僕を襲った。
もうこれ以上、シロさんに人殺しをさせたらいけない。
シロさんがシロさんじゃなくなってしまう。
「隠しても無駄よ。ナナクサと何を話したの? 命を狙われてるって言ってたわよね? どういうことか説明して頂戴」
セリちゃんが驚いたように僕を見る。
「……狙われてる……? 誰に……?」
どこまで話をすればいいんだろう。メトトレイさんを信用しても大丈夫だろうか。
それにこの部屋には他にもジセルさんもいる。エイジェンの話はしてもいいのだろうか。




