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流転するアルケウス ~inherited Meme~  作者: イトウ モリ
第32章 機略の黒 〜negotiation〜
360/395

piece.32-7



 案内された部屋に入ると、セリちゃんがベッドで横になっていた。

 ベッド脇には何回か見かけたディマーズの男の人がいる。名前はたしか、ジセルさん……だった気がする。


 ジセルさんとセリちゃんが僕たちの方を見た。


 衰弱していると言われていたけれど、セリちゃんの顔色は想像していたよりも良かった。


 でも、セリちゃんが目を覚ましているタイミングで会えたことを、嬉しいと感じるよりも先に、小さな違和感を感じた。


 言葉にできないくらいの、でも妙に引っかかる小さな、とても小さな違和感を――。


「気分はどうだ」


 レミケイドさんが尋ねると、セリちゃんが苦笑しながら答えた。


「あんまり良くない。だからジセルとしりとりしてた」


「しりとり?」


 会話の前後の意味が不明すぎて僕は変な声をだしてしまった。具合が良くないと何でしりとりをするんだろう。


 僕の疑問に答えてくれたのはジセルさんだった。


「気持ちが内に向きすぎると、また不安定になるからな。気を紛らわせるにはちょうどいいだろ?」


「ジセルのしりとりおもしろいんだよ。『誰かしりとり』っていうの」


 セリちゃんがそう言うと、なぜかジセルさんがレミケイドさんから目をそらした。


 それに気づいてセリちゃんが慌てて説明をつけ加えた。


「あ、別にレミケイドの悪口なんて言ってないよ。本当だよ」


「初代〜、そのタイミングでそれ言ってもフォローになんないって」


 ジセルさんが苦笑いしている。つまりレミケイドさんの悪口しりとりをしていたらしい。


 しかもそれを本人を前に言うって……。


「お楽しみのところ悪かったな。ボスが戻るまでこのまま待機していろ。自分は仕事に戻る」


 そう言ってレミケイドさんは、僕を部屋に残して出ていってしまった。


「初代〜、変なフォローやめてくれよ〜」


 ジゼルさんがセリちゃんに文句を言うけど、顔は笑っているから本気で困っているわけではないらしい。


「ごめんごめん。ところでジセル、用足しに行きたかったんでしょ? カインもいるし、行ってきたら?」


「いや、でも、ボスから目を離すなって言われてるしさ」


「あれ? 大なの? 小だったらすぐ戻って来れるでしょ? それくらいなら大丈夫だよ、いきなり急変したりしないからさ」


「なあ〜初代、もうちょっと言い方考えてくれよ〜。たしかに小便だけどさ〜」


「じゃあすぐ帰ってこれるじゃん。行ってきなよ、漏らす前に」


「漏らすか! ホント言い方考えてくれよ。今度初代しりとりのネタにするからな。【デリカシーがない】って」


「あはは、楽しみにしてる。ほらほら、せっかくカインがいるうちに行ってきなって。漏らす前に」


「漏らさねーよ! ……わかったよ。じゃあえーと、……り、り、り……【理屈屋】! 【や】な。戻るまで考えとくんだぞ!」


 ジセルさんはしりとりのお題を出して部屋を出ていく。

 足音的に駆け足で用を足しに向かったようだ。


 セリちゃんが僕を見た。

 なぜか緊張した。


 セリちゃんなのに、セリちゃんじゃない気がして。


「あったんだね……」


 セリちゃんの静かな声が部屋に響いた。


 あったんだね、が『会ったんだね』だという意味だということは、なぜかすぐに分かった。

 

 どうしてわかったんだろう。

 僕がシロさんと会ったことを。


 だけどそんなことよりもセリちゃんの目が怖かった。


 僕はこの目を知ってる。


 この目を見たのはいつだっただろう。




 セリちゃんが、ナナクサに見えた。


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