piece.32-6
僕はおそるおそる口を開いた。
「……実は、知り合いに会いました。
その人は命を狙われているので、詳しいことは話せません」
カシアさんは驚いた顔をして、黙り込んだ。
この表情は演技だろうか。
カシアさん自身がエイジェンで、シロさんのことを殺そうとしているのであれば、僕が標的であるシロさんと関わりのある人間だと白状する形になる。
「そう……それなら、何も話したくはないですね。ごめんなさい。
それなら、私はここにいても、邪魔なだけですね。……すみません……もう……帰ります」
静かにカシアさんは席を立った。
メトトレイさんが寄り添って部屋を出ていく。ドアを出る直前でカシアさんが立ち止まった。
そしてゆっくりと僕を振り返る。
「あなたがかばっている人は、私の夫を殺した犯人だと思いますか?」
直球だ。
でも身構えていたから動揺せずに答えることができた。
「どうでしょう。僕には分かりません」
シロさんはハギさんを殺したと言っていた。
カシアさんの口からはハギという名前は出ていない。
でもきっと長い名前の旦那さんが、ハギさんなのかもしれない。
でもそんなこと僕は知らない。
だから分からないと答えても嘘ではない。
カシアさんは軽く会釈をすると、入ってきたときと同じようにメトトレイさんに付き添われながら部屋の外へと出ていった。
またレミケイドさんと二人きりになる。
「状況は理解できた。ボスが戻ってきたら改めて話を聞きたい」
どうしても僕から情報が欲しいらしい。
僕としてはカシアさんから昨日の夜の話が聞けたので十分な気がした。
もし本当にカシアさんがエイジェンなのであれば、次は僕に直接接触してくるだろうという予感もあった。
だから僕にはもう、ここにいる理由はない。
また重苦しい雰囲気に戻ってしまわないよう、わざと明るい声でレミケイドさんへ話しかけた。
「ところでセリちゃんの具合ってどうなんですか?」
突然態度を変えた僕に、レミケイドさんは探るような視線を向ける。
「時々意識が戻るが、まだ衰弱はしている。自力で起き上がるにはまだ尚早だ」
「ちょっとだけ顔を見に行ってもいいですか? メトトレイさんが戻ってくるまでの間でいいので」
レミケイドさんは小さくため息をついた。だめかと思ったけれど、書類を片づけると、立ち上がって部屋のドアに向かう。
そして僕を振り返った。終始無言だけど、その真意は伝わってきた。
セリちゃんに会わせてくれるらしい。
僕はこの部屋に入ってから、初めて笑顔になった。
「やった! ありがとう、レミケイドさん」
レミケイドさんが返事代わりに大きなため息を返してきた。




