piece.32-3
ディマーズに戻った僕は、すぐにレミケイドさんに呼び出された。
有無を言わさず個室へと連れて行かれて、予想した通り、部屋に鍵をかけられてしまった。
部屋には僕とレミケイドさんの二人だけ。
雰囲気で分かった。
僕はまた尋問されるらしい。
尋問の内容は、今日僕が接触した人物について洗いざらい吐けというものだった。
僕がシロさんと接触したことがばれてしまっているのか。
それともキキョウさんが僕に接触してきたことなのか。
はたまたそのどちらもなのか。
そしてその情報を素直にレミケイドさんへ伝えてもいいことなのか、疑問は増すばかりで、僕は口を開くことができずにいた。
レミケイドさんには前にシロさんのことを簡単に伝えてある。
ほんの少しだけど、二人には面識もある。
にもかかわらず、『僕が今日接触した人物』という表現をするということは、僕がシロさんと会っていたことまでは把握できていないのかもしれない。
もしかしたら、レミケイドさんが欲しがっている情報はキキョウさんの方だろうか。
とりあえずそこまで頭を整理して、やっぱりどうしても納得できないことがあった。
こんなやり方はフェアじゃない。
僕は昨日の夜、何があったのかレミケイドさんから何も共有してもらえていない。なのに僕にはこんなやり方で聞き出そうとしている。
僕は納得できなかった。
「まるで僕がエイジェンと繋がってるって疑ってるみたいな扱いなんですね。
それとも僕はエイジェンのエサにでもされましたか?」
何回かレミケイドさんに取り調べをされているせいか、僕は全く緊張することもなくレミケイドさんと向き合えている。
堂々とした声が出せている自分にびっくりだ。
対してのレミケイドさんは、あいかわらずの完璧な無表情で、全く何を考えているか読み取ることができない。
「巡回メンバーからの情報提供だ。勘違いしないでほしい。異論があるなら構わず言ってくれ」
そう返す言葉は非常に事務的で、淡々としている。実際に僕をエサにしたとして、きっと悪いとは思っていないのだろう。
もちろんこっちだって、巡回メンバーが目を光らせているのを分かったうえで、なるべく足取りをたどられないように行動していた。
不審な空気を出したつもりはないけれど、目をつけられていたのであれば仕方がない。それは自業自得だ。
だからあえて開き直ってみることにする。
「僕をエサにして何か掴めましたか?」
「今日街で誰と会っていたか教えてほしい」
「交換条件にしましょうよ。昨日の夜の情報を教えてください」
「君を信用していいのか分からない。だから伝えられない」
「そうですか。なら僕も同じ理由で伝えなくてもいいことになりますよね」
「誰をかばっている」
「そっちこそ何を隠してるんですか」
無言でレミケイドさんと睨み合う。
完全に平行線だ。レミケイドさんは僕に何も情報を明かす気はないのだろう。
それなら僕だって協力する気はない。
シロさんを助けるためには、エイジェンの情報がありったけ必要だった。
シロさんを助けるということは、エイジェンと敵対するということだ。
危険なエイジェンを敵に回すという僕の選択を、すんなり受け入れてもらえるとは思えなかった。
真相に近い情報を持っているのは、おそらく僕だろう。
アドリア邸に潜入したシロさんは、中にいるハギさんを殺した。
アドリアという人は、ディマーズに資金提供をしている資産家だけど、その裏では親のいない子どもを集めて、使い捨ての人殺しとして育てている最低の人物だった。
メトトレイさんやレミケイドさんは、きっとそこまでは知らないだろう。知っていたらきっと、資金援助なんて受けていないと思う。
僕の行動はどこまで見張られていたのだろうか。巡回中のメンバーの動きはチェックしていた。尾行まではされていなかったはずだ。
アドリア邸で人殺しをした犯人と僕が協力関係だと疑われているのか、ただ単に手がかりを知りたいだけなのか。
犯人はシロさんだと、すでにもう調べた上で僕に揺さぶりをかけているのか。
僕はレミケイドさんの真意を測りかねていた。




