piece.32-1
なんでキキョウさんがリリーパスに――?
僕の心臓が早鐘のように鳴っている。
僕は内心の動揺を見破られないように必死で平常心を装った。
キキョウさんもキャラバンのメンバーだ。
エイジェンに関係していないはずがない。
つまりキキョウさんがリリーパスにいるということは、今回の件に関わっている可能性があるということだ。
もしかしてシロさんが逃げたのは、僕じゃなくてキキョウさんから?
でもキキョウさんがシロさんに反応を示さなかったのは何故だろう。
シロさんがナナクサをしているときにキャラバンのメンバーだったわけだから、シロさんを見て気づかないはずが――……。
記憶をたどり、いつかのシロさんの言葉を思い出す。
(こっちにも都合があるんだよ。
あの即席キャラバンのメンバーだって、ナナクサ団長様の中身が、男の俺だなんて誰も知らねえんだから――)
そうだった。
そういえば前にシロさんがそんなことを言っていた。
つまりキキョウさんが認識しているのはナナクサを演じているシロさんであって、普段のシロさんを見ても誰だか分からないということだ。
シロさんが性別を偽ってナナクサになっていたことって、まさか自分が追われる側になるかもしれないことまで想定していたってことなのだろうか。
だとしたら、キキョウさんはエイジェンに反旗を翻したシロさんへの刺客――?
ここで鉢合わせしたことだって、ただの偶然だなんて思わない方が良さそうだ。
「えーっと……すごく……久しぶりですね……」
当たり障りのない挨拶をしながら、僕はさらに記憶をたどる。
最後にキキョウさんと会ったのは――実際には直接会ってないけど――たしか、グートの屋敷だったはずだ。
あの時、ナナクサの格好をしてるシロさんがセリちゃんにとんでもない衣装を着させて、しかもセリちゃんのことをグートを襲った犯人にしてしまったんだった。
そこからはたしか、ナナクサが一時的にキャラバンを解散させたって言って、シロさんは僕とずっと一緒に行動していた。
その間、キキョウさんはどこで何をしていたんだろう。
何か聞き出せることはあるだろうか。
僕は慎重に話す話題を考えながら口を開いた。
「……あのとき、ナナクサに濡れ衣を着させられて、大変だったんですけど。
キキョウさんと最初に街道で会ったときから、すでに罠だったんですか?」
キキョウさんは僕を品定めするように眺めると、感心したように笑みを深めた。
「へーえ、適当にとぼけて逃げるかと思ったけど、なかなか肝が据わってるじゃない。
最初に見たときはずいぶんひ弱そうな坊ちゃんだと思ってたけど、すっかり見間違えちゃったよ。
さっきの動きだってなかなかなもんだったし。
悪名高い【皆殺しのセリ】から色々と手ほどきでも受けたのかい?」
迂闊にしゃべったら相手の思うつぼだ。
余計なことはしゃべるな。
僕は気を引き締める。
こっちの情報はなるべく漏らさず、相手から聞き出せるだけ聞き出さなくては。
「街道で会ったとき、あれはセリちゃんと接触するためにわざとあそこにいたの?」
「あはは、ずいぶん深読みするんだねぇ。
あれは本当にただの偶然だよ。私だってまさか大先輩が車輪の修理を手伝ってくれてるなんて思いもしなかったさ。
まあ……もしかしたら、セリ姉さまの方は、私に気づいてたのかもしれないけどね」
セリ姉さまという呼び方に、どこか親しみのようなものを感じ、僕は不意に浮かんだ疑問を口にした。




