piece.31-10
遠くに聞こえる街の人たちの声。
近づいていく足音と、遠ざかっていく足音。
僕とシロさんがいる場所は、人の営みからは切り離された場所みたいに思えた。
シロさんは言った。
次にナナクサにされるのはセリちゃんだと。
そうならないように、シロさんはエイジェンたちを消すのだと。
僕は……どっちも嫌だった。
セリちゃんがナナクサになるのも嫌だし、シロさんがエイジェンを殺すのも嫌だった。
どっちも止めたい。
どっちも阻止したい。
どっちも助けたい。
どうすれば、セリちゃんとシロさんの二人を救うことができるんだろう。
ふと――。
遠くから聞こえる街の声の中に、違和感を感じた。
「ちょっと! 離してよ! アンタたちと遊んでる暇なんかないの!」
「おいおい、こんなとこで立ってんのは、誘ってるようにしか見えねえっての」
声が近づいてくるような気がした。
……まさかね。
こんな狭くてガラクタが道を塞いでるようなところに、好き好んで入ってくるような物好きはいないはずだ。
だがしかし、足音は離れていくどころか、近づいてくるような気がする。
あれ……?
もしかして……この路地、入ってきちゃう?
いやいや、まさかあ。
……あれ? 嘘……やっぱり近づいてる?
細くて暗くて障害物満載な路地を抜けて、男二人が女の人の手をつかみ、今まさにここに到着してしまった。
男二人は先客の僕とシロさんを見て面食らった顔をする。
僕もまさか本当にこんな道に入って来ようとする人がいるなんて思わなかったから、一緒に面食らってしまう。
「おいおいマジかよ! 男二人でいちゃついてんじゃねえよ! 終わったんならさっさとどけよ! ここは俺たちがこれから使うんだからよ!」
「……カイン。人が来たら起こせって言ったろ……?」
ものすごく機嫌の悪いシロさんの低い声が聞こえた。
うわぁ……。
よりにもよって寝起きの機嫌の悪いシロさんまで降臨だよ。
このあとに起きるであろう大惨事に僕は頭を抱えた。
「二人か……。片方5秒、合わせて10秒。一人でやれるな?」
僕の膝から頭を持ち上げたシロさんが、起きがけにそっと僕に囁いた。
まさか僕に丸投げしてくるとは思わず、驚きで声がひっくり返ってしまった。
「へ? さ、さすがにそれは……」
「もしクリアしたらお前の言うことをなんでも聞いてやる」
「……ホントに?」
まさかの大チャンス到来だ。
シロさんが言うことを聞いてくるなんて、こんな機会滅多にない。――と同時に、僕に頼らないといけないくらいに、シロさんの体調が良くないということにも気づかされる。
なら――まずはシロさんをディマーズに連れて行って、すぐに回復と治療をしてもらわなくちゃ。
それが終わったら一人で勝手に危ないことをしないように約束してもらわないと。
このチャンス、絶対に逃すわけにはいかない。




