piece.31-8
次のナナクサにされんのはセリの番だ。
シロさんはそう言った。
それが何を意味するのか、僕にはよくわからなかった。
もしかしたら、わかりたくなかっただけかもしれない。
「なにそれ……ナナクサに、される……? だいたい、昨日の夜にもナナクサが現れて、ディマーズの人にひどいことを……」
シロさんは鼻で笑いながら僕の言葉をさえぎった。
「雑草の生えが良くないんだとさ。伸びない雑草に金かけるより、踏んでも枯れない雑草を使い回そうって考えになっちまう程度にはな」
「……雑草って……それ、エイジェンがそう言ってたの……?」
シロさんが口元をゆがめて笑う。
「腐った屑をどれだけ殺して汚れても、ディマーズってやつらの技が使えれば、壊れずに済むんだろう? 今までは、汚れたら壊れて死ぬだけだった雑草が、ほっといても自分で勝手に復活するわけだ。そりゃあ便利だし使わないわけはないだろ?」
「使うって、誰が……誰を……?」
「今お前が言っただろ? エイジェンって呼ばれてるやつらだよ。世界をきれいにすることに妄信するお偉い様どもさ。
普通の人間たちが平和で健やかに生きていく世界を守るために、誰からも必要とされない雑草を集めて、ゴミ掃除させてる金持ちの慈善家団体さ」
少しずつ、繋がっていく。
メトトレイさんの話と、シロさんの話が。
「もしかして……その人って……リリーパスに住んでる……アドリアって人のこと……?」
シロさんが目を細めて笑う。肯定の笑みだった。
アドリア邸にナナクサがいるとメトトレイさんは言った。
シロさんはアドリアという人がエイジェンだと認めた。
シロさんがハギさんと争って傷ついた場所は、きっとアドリア邸だ。
どうしてその場所にシロさんがいたのか。
それは――シロさんがメトトレイさんから聞き出したからだ。
メトトレイさんとレキサさんを誘拐したナナクサは――やっぱりシロさんだったんだ。
「身寄りのないガキを保護して育てる慈善家の資産家――蓋を開けてみりゃあなんてこたあない。
使い捨てを集めるのに金を惜しまなければ、こんな大っぴらにやれるんだもんな。
もともと身寄りがないんだ。死んだって誰も気にしない。好都合だ。
んで、そのガキを鍛えるために雇われてたやつが、まさかのハギだったってわけさ」
「それで……だから、ハギさんを殺したの?」
「頭を潰せば、それでもうおしまいだと思ってたんだけどなあ。まさかハギまで抱え込んでたなんて、完全な誤算だったよ。俺もまだまだ考えが甘かったってことさ。
ハギの話じゃ俺らの親玉ってのはやつだけじゃない。そんなのがまだ他にもいるんだってよ。
はーあ、めんどくせ。全員消すのにどんだけ手間かかるんだか。あーくそ、めんどくせえ」
「……え? シロさんは……その人たち、全員殺す気なの?」
「当たり前だろ。ならお前、ナナクサになって屑を狩りまくってるあいつ、どうする気だよ」
「セリちゃんはナナクサになんかならないよ。そんな選択はしない。選ぶわけない」
「あいつの選択なんか知ったことかよ。あいつがセリって名前でここまで生きちまって、【皆殺しのセリ】なんて名前をあちこちに広めまくって、ディマーズとかの毒消しができるとまでバレちまった以上、もう逃げ場なんかねえんだよ。
ハギですら逃げられなかったんだ。あのバカが逃げ切れるわけがない」
「そんな……」
僕は絶望的な気持ちでシロさんの言葉を聞いていた。
エイジェンからは逃げられない。
僕はハギという人のことは全然知らない。
でもシロさんの言葉から、ハギという人はシロさんが一目置くほどの人だということは充分に伝わっていた。
その人がエイジェンからは逃げられなかったと言った。
もしかしてハギさんがしていたことは、やりたくないことをエイジェンに無理やりさせられていただけなのかもしれない。
「だからセリって名前は使うなってあれほど言ったのに……あのバカ……」
その言葉が妙に引っかかった。
まるで、シロさんはセリちゃんがこうなることをずっと前から知っているかのような言い方だった。
「シロさんは……ずっと……セリちゃんを助けようとしてたの?」
「さあて。どうだかなあ……」
そこでシロさんは言葉を切って、僕を見あげた。




