peace.4-5
「やっぱさ、街道沿いを進むので何がいいって、こうやってちょうどいい間隔で休憩所がちゃんとあるってところだよね!」
ルンルン気分のセリちゃんは、いろんな軽食を外のお店で買いこんでくると、部屋のテーブルに乗りきらないほど広げ始めた。
外はあいかわらずの大雨なので、お店の買い物もフードを深くかぶったままでも全然怪しまれない。
むしろ雨のせいで、ここの旅人はみんなそんな恰好だし、外を出歩いている人も少ない。
「食事もそれなりのが食べれるし……たまに場所によってハズレもあるけど、ちゃんと屋根があってベッドがあってお湯がある生活って、やっぱり便利だよね――ってこれウマ!
カイン! これ! おいしい! 食べてみて!」
セリちゃんが焼き菓子のようなものを僕にはんぶんこしてくれる。もうセリちゃんは全然せかせかしてなかった。すごく機嫌がいい。
「僕、野宿も嫌いじゃないよ。麦粥も好きだし」
セリちゃんと一緒なら、どこでだって僕は生きていけると思う。
そもそも僕は今までまともに家の中で寝たり、おいしいものを食べたりなんてしてきてないから、セリちゃんの言うような街道ルートの良いところなんて言われたって――。
さくっ。
僕の口の中で、焼き菓子が軽い音を立てて崩れた。
そして……その瞬間――口いっぱいに広がる深い甘さと味わい――!
うおぉぉぉぉぉぉ!! なんだこれは!? なんだこの胸にこみあげてくるものは――!?
激しく胸を突き上げてくるこの得体のしれない激しさと、その激しさと同じくらい、とろけてしまうほどの柔らかさはなんなんだ!?
誰か――!! 僕に教えてくれ――!!
これは……この味わいは……!
一体なんなんだ――!
……なんなんだー!
……なんだー!
……んだー!
……だー……!
僕の心の叫びが頭の中で反響していると、セリちゃんが目をキラキラさせて、僕をのぞきこんできた。
「おいしいよねカイン! これおいしいよね! どうする? もう一回買ってくる? 10個くらい買ってきちゃう? というか買い占めちゃう?」
そうなんだねセリちゃん! いまセリちゃんの中でもこのお菓子のはじけるおいしさが、激しくも柔らかく体中を駆け巡ってるんだね!
「行こうセリちゃ……じゃなくてトーキ! 僕こんなおいしいの、うまれて初めて食べたよ!!
ここ! すっごい、いいところだね! 僕、ここ大好きになりそう!」
二人でずぶ濡れのフードマントを着て外に出ると、少し雨が止みかけていた。さっきよりは空が明るい。
「……あ! カイン! 虹だよ! 向こう見てごらん!」
セリちゃんが指差す方を見ると、黒い空がわずかに色づいている。
「虹……?」
「雨が止んだ晴れ間に出るんだ。短い間なんだけどね。
あー、でもまだ雲が厚いから、すぐにもう一雨すごいのが来そうだ。
今のうちにお菓子買いだめしよう! この雨、けっこう長続きしそう」
セリちゃんは虹を見るのも早々に、お菓子屋さんへ突撃してしまった。セリちゃんはあのお菓子がそうとう気に入ったらしい。
僕は本当はもうちょっと虹を見たかったけど、セリちゃんに続いてお菓子を売っている小屋に入ることにした。
まったくもー、セリちゃんってば。
たまにセリちゃんは、僕よりもずっと子供っぽいことがあるよね。
そこがセリちゃんのかわいいとこでも……あるんだけどさ。




