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流転するアルケウス ~inherited Meme~  作者: イトウ モリ
第30章 首魁の黒 〜tradition〜
340/395

piece.30-12



 ディマーズの敷地から離れると、ポーターは周囲を確認しながらさりげなく僕へと距離を詰めてきた。


「さて、と。なんかいろいろあったっぽいんだけど、どこまで吐ける? 吐けるだけ吐いてもらうぜ?」


 流れるような自然な動作で、ポーターが僕の肩に腕を乗せる。

 ポーターの声は周りを意識して低い声になっている。僕にしか聞こえないくらいの音量だ。


「え? 吐く? 何を?」


 困惑する僕に向かって、ポーターは笑みを深めた。


「昨日の夜、ベロベロに酔っぱらったディマーズのオバサンがレミケイドさんに抱えられて街を歩いてた」


 とっさに声を出さないように我慢できたけれど、僕の表情でばれてしまったらしい。ポーターの笑みが確信の色に変わる。


「やっぱお前連れ出して正解。

 まあ、オバサンが酔っぱらって街を歩くのなんて、たま~に見る光景だから、別に珍しくもないんだけどさ。一緒にいるメンツが精鋭ぞろいだったのも、酒が強いメンバーだったし、その点は何もおかしくはない。な~んか引っかかったのは……情報屋の勘ってやつかな?」


 完全に情報を握ったやつだとマークされてしまった僕は、強制的にママンの店まで連行されてしまう。そして当然、ママンの店で案内された席は秘密の話し合いに使う個室だ。

 しぶしぶ席に着くと僕は開口一番に先手を打った。


「先に言っとくけど、僕も詳しいところまでは何も教えてもらってないんだ。だからポーターが期待してるようなことは何も知らないし話せないと思う」


 勝手に話を広めてしまうと、あとでレミケイドさんやメトトレイさんに怒られてしまう。それにポーターたちを巻き込みたいわけじゃない。

 僕は絶対に口を割らないぞという気合を入れて、ポーターとの会話に臨んだ。


「はいはい。そういうやつはいいからいいから。

 で、だ。今日はどうやら街の巡回が強化されてる。手配書も更新された。貼りっぱなしだったセリさんのが剝がされて、別の女に貼り替えられてた。で? あのナナクサって女は何やったんだ?」


 ナナクサの手配書が貼られている――ということはレミケイドさんはナナクサを捕まえられなかったんだ。逃げたのか、そもそも会えなかったのか。

 それよりアドリアさんって人は無事だったのかな。それともアドリアって人が例のエイジェンだったり?


 ポーターに聞けばアドリアって人の情報を教えてくれるのかもしれない。でも迂闊に口を開くと、エイジェンの話をしなくちゃいけなくなる。それは危険だ。


 いろんなことが頭をめぐるけれど、やっぱりポーターたちの安全が第一だと思い直した。

 僕はなるべくポーターとの話が深まらない方向で話を終わらせて帰ることに決めた。

 

「僕もよく分からないんだ。ちなみにその手配書ってどこらへんに貼られてるの? 食事が済んだら僕も見てこようかな」


 適当に話を合わせたつもりだったけれど、ポーターの目が光った。


「ふんふん、ナナクサに興味あり、か。で? そのナナクサってオネーサンはカインとはどういうつながり? 出会いは? 付き合ってどれくらい? 告ったのはどっちから?」


 くっ、手ごわいなポーター。まるでシロさんと話してるみたいだ。

 下手にごまかそうとするとボロが出てしまう。なんとかこれ以上追及されないうちに会話を終わらせなくては。


 僕は焦りがばれないように、料理を口いっぱいに頬張りながら次の言葉を考えた。


「ナナクサって名乗ってた人とは前にちょっとだけ会ったことがあるんだ。だから、そこまで親しいわけじゃないっていうか……。だから、その人と同じ人なのか確認したいだけっていうか、興味があるだけだよ」


「そんな変わった名前の女なんて何人もいるわけないだろ。……ああ、つまり名前を(かた)った偽物ってことか? そのナナクサって女を()めようとしてるやつがいるとかか?」


 ナナクサの名前を(かた)る偽物――。

 そしてセリちゃんと同じ毒を持っているかもしれない人。

 かつてセリちゃんが団長と呼び、心酔していたナナクサと同じ毒を宿す人。


 でも――そしたらそれはもう、偽物ではなくナナクサそのもの……なのかもしれない。


「……分からない。僕の知ってる人じゃないといいなって思ってるところ……」


「ふーん、じゃあカインの知ってる方のナナクサって、どんなやつ? 実際ディマーズに追っかけられそうなことしそうな人なん?」


 そう言われて真っ先に思い出したのはグートの悲鳴だった。

 続けて思い出すのは、体を激しく痙攣させて、目をむき出しにしていた貴族のおじさん。

 何のためらいもなく、相手の首めがけて針を突き刺すシロさん。


 月明かりに照らされた真っ白な肌。

 めまいを覚えるほどの甘い香り。

 男の人だということを忘れてしまいそうになるくらい妖艶な姿。


「……んっと、しそうな人ではある……気がする……」


「じゃあそれ本人なんじゃね?」


「言わないで……」


 やっぱりシロさんなのかな。

 シロさんしかいないよね。シロさん以外にいないよね。

 ていうかシロさん以外にまだそんな強烈な人出てきたらもう収集つかないよね。おしまいだよね。


 僕は頭を抱えてテーブルに突っ伏した。

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