peace.4-4
「カイン。脱いだらこっちおいで。体拭いたげる」
セリちゃんがあったかいお湯で絞った布で、僕の体を拭いてくれる。
「わー、あったか! 気持ちいいね。ほっとする。
……トーキは拭かなくて良かったの? 服、着ちゃったけど」
「私がいそいで着替えたのは、だれかさんが私の胸をじろじろ見るからでしょうが!」
セリちゃんはまだ赤い顔をしたまま、僕のおでこをピンってはじいた。
僕はびっくりしてしまったけれど、おでこのピンっはそんなに痛くない。
それで僕は、ようやくセリちゃんが本当は怒っていないということが分かった。
「えへへ……」
僕は笑って、ピンってされたおでこをこすった。
よく分からないけれど嬉しかった。
痛くされたことが嫌じゃないって不思議だ。たぶん相手がセリちゃんだからなのかもしれない。
「えへへじゃないの! ……まったくもう。
じゃあカイン、残り湯で足湯しよう。足があったまると疲れがとれるから。一緒に手もあっためるといいよ」
僕がベッドに腰かけて靴を脱ぐと、セリちゃんがたらいを近くまで寄せてくれて、「カイン? 靴ずれしてたの?」と、僕の足のすり傷に気づいた。
「うん、まあ。ちょっとだけ靴が大きいから、いつも適当に隙間を詰めてたんだ。ただ今回はちょっと詰め方ががうまくいかなくって、それで……」
「そういうことはちゃんと言ってくれなきゃ」
セリちゃんが少し怖い顔をする。
でもインパスの街を出てからのセリちゃんは、ちょっとイライラしてるっていうか、せかせかしてるっていうか……。
いつもだったらすぐに僕を振り返って「大丈夫?」とか「疲れた? 休む?」とか「荷物重くない?」とか聞いてくれてたのに。
たぶん、キャラバンに早く追いつかなきゃって思ってるからだろうけど、今回は僕を気にしたりしないでどんどん先に進んでた。
本当はもう少しゆっくり歩いてほしかったけど、……でも僕がもたもたしてたら、またどこかで置いてけぼりにされてしまいそうで――――それが怖くて僕はセリちゃんになにも言えなかった。
「……ごめんなさい」
僕が謝ると、セリちゃんは大きなため息をついた。
どうしよう。もしかして嫌われた――?
怖くなった。
レネーマも機嫌が悪くなり出す前は、すっごく大きなため息をついていたから。
僕の胸がドキドキして、息も苦しくなってくる。
「……ごめんなのは私の方。気づかなくてごめんね、カイン」
セリちゃんが僕の頭を優しくなでながら、あやまってくれた。そのまま言葉を続ける。
「この雨、しばらくおさまりそうにないしね。
なんか私、ちょっと余裕がなかったかも。この大雨はちゃんと休みなさいってことなのかもね」
セリちゃんが笑ってくれた。
……良かった。怒ってない。
僕は安心してゆっくり息を吐いた。
セリちゃんは、やっぱりすごく優しい。
いままで出会った人たちの中で、一番に優しい。
僕はやっぱりセリちゃんのことが……。
……?
…………セリちゃんのことが、なんだろう?
――――あれ? なんだろう。
セリちゃんは怒ってないはずなのに、なんでまだ苦しいんだろう……。
最近、僕はなんだか変だ……。




