piece.30-11
朝になった。
昨日の夜のできごとが噓みたいに、何もない静かな朝だった。
戻ってきたレミケイドさんたちからの報告は何もないまま、僕とレキサさんは宿舎の部屋に戻された。
レキサさんは怪我人だし、僕は正式なディマーズのメンバーではない。
でも、あきらかにレミケイドさんたちは何かを隠していた。それは僕に対してなのか、ディマーズのメンバーたちに対してなのかはよく分からない。
エイジェンという存在や名前自体が、誰かの耳へ容易に入れていいものではないから、メトトレイさんと相談してから発表することになるのかもしれない。
そんなこともあって、帰ってきたレミケイドさんからは、ナナクサの名前も、アドリアという人の安否も、何も報告はなかった。
セリちゃんの意識が戻ったら、ちゃんと僕にも情報を教えてくれるのだろうか。
レミケイドさんたちが向かった先で、ナナクサはいたのだろうか。
ナナクサは……やっぱりシロさんだったのだろうか。
知りたい。
今すぐに聞きたい。
朝食を食べた後、レミケイドさんを探しに行ってみたけれど、メトトレイさんもレミケイドさんも忙しくて僕が会いに行ける状態ではなかった。
セリちゃんのところにも近づくことができなかった。
行く当てもなく談話室で一人座っていると、聞き覚えのある声が僕を呼んだ。
「おいおい、カインじゃん。なんだよ、しれっとこんなとこにいやがって。
こっちゃあ無事でいたのかすげえ心配してたんだぞ。生きてんなら生きてるでレッドに教えてやれよな」
そこにいたのはポーターだった。
「ポーター! なんでここに? ……あ、そうか、仕事か」
情報屋以前に運び屋だと言っていたことを思い出す。
「そゆこと。ディマーズの皆々様へのお届けもんの配達なんよ。ついでにディマーズの連中からも預かるもんも預かって、街に持ってくのも仕事」
「そっか……じゃあ、レッドに僕は元気だよって伝えてくれる?」
「は? 自分で言えばいいじゃん。お前別に拘束されてるわけじゃないんだろ? なんなら一緒に飯でも食いにいこうぜ?」
なんとなく出かけてはいけないような気がして、近くにいたメンバーの顔色をうかがう。
昨日のできごとについて、レミケイドさんからもメトトレイさんからも詳しい話は聞けていない。
許可なく勝手に外出していいものかどうか、僕は迷った。
「飯くらい行ってくれば? どうせママンのところだろ? 初代も寝てるんだし、二代目も気分転換でもしてこいよ」
近くにいた人がそんな声をかけてくれると、ポーターが上機嫌で乗っかってきた。
「ほらほら! ジセルさんもそう言ってくれてるし」
そう言いながらポーターは強引に僕の背中を押して、勝手に外へと連れ出してしまう。
なんとなく申し訳ない気持ちになりながら、僕は門番に外出することを伝えて外に出た。




