piece.30-8
レミケイドさんと同時に腰を浮かせたセリちゃんへ、メトトレイさんが釘を刺す。
「あなたは行ってはだめよセリさん、今は私もあなたも足手まといでしかないわ。
特にあの人とあなたは毒の親和性が高い。行ったら確実に毒に飲まれるわよ」
毒に飲まれるという言葉で、セリちゃんが怯んだ。
セリちゃんが何よりも恐れていることだ。
「でも……レミケイドたちは……」
苦しそうな顔のセリちゃんへ、メトトレイさんが力強い笑みを浮かべる。
「大丈夫、問題ないわ。うちのレミケイドを甘く見ないで頂戴。あの子の負けず嫌いと努力家なのはディマーズで一番よ。
ほらあの子、昔あなたに触発されて、自分の毒が制御できなくなったことがあったじゃない? そのことがすごく悔しかったみたいで、長い間こっそり隠れて一人ですごく努力してたのよ。
アスパードの時も、完全に毒が覚醒して暴走してしまったあなたに、ディマーズのみんなは誰も近づけなかった。だけどレミケイドだけが唯一あなたの覚醒した毒を危険レベル以下まで落とすことに成功した。もちろんレミケイド自身も正気を保ったままでね。まあ、ちょっと大怪我はしてしまったけれど」
それは前にレミケイドさんが言っていた、セリちゃんに斬られた傷のことだと思う。
ディマーズのメンバーの人が話しているのを聞いたけれど、かなり大きな傷が残っているらしい。
セリちゃんもレミケイドさんに怪我をさせてしまった負い目があるからだろう、浮かない表情は変わらない。
「そんな顔をしないで、レミケイドなら大丈夫よ。
なんていったってディマーズ史上で最も治療抵抗性で厄介な毒持ち、おまけにエイジェンの手のかかった組織出身の女の子を、単独任務で追跡して、ちゃんと無事に連れ戻したレミケイドよ。実力は私にも劣らないわ。
信じてあげなさい。しれっといつもの澄まし顔で帰ってくるわ。うちの精鋭も連れていくだろうし、すぐにあなたの『自称お姉さん』を捕まえてくるわよ」
メトトレイさんの言葉でも、セリちゃんの表情は晴れることはなかった。
そんなセリちゃんの顔を見て、メトトレイさんは場の空気を変えようとしたのか、明るい声で話しかけた。
「とりあえず、私が話せることはこれでおしまい。
セリさん、他に聞きたいことはある?」
セリちゃんは暗い顔のまま首を横に振る。
「……急には思いつかなくて……」
すると今度はメトトレイさんが僕に尋ねてきた。
「そう、じゃああなたは? ずっと何かを言いたそうに見てたわね。口を挟まず待てて偉いわね。いいわよ、答えられる範囲で答えてあげる」
まっすぐに目を見つめられると、迫力に負けそうになってすごく緊張する。
エイジェンについて知ることは、僕自身が危険になることにもつながる。メトトレイさんの目は僕にその覚悟を問うていた。
だけど、せっかくのチャンスだ。
セリちゃんやシロさんの秘密に少しでも近づきたい。
二人を助けるために。
僕はその意思を込めて、メトトレイさんを見つめ返した。




