piece.30-2
僕はメトトレイさんに質問した。
「その独裁者の人って、今はどうしてるんですか? 僕、そんな人の話、今まで一度も聞いたことがないからなんか信じられなくて……今もどこかにいるんですか?」
メトトレイさんは優しく微笑むと、僕に説明してくれる。
「いいえ、今はもうその一族はどこにもいないわ。今は貴族や商人、大きなギルド、人をまとめることが得意な人がリーダーとして自治することで均衡を保っているでしょう?」
それは知っている。
だからこそ、不思議なんだ。
そんな大きな権力を持った支配者は、いったいどこに消えてしまったのか。
「でも……じゃあ、独裁者の人はどうしていなくなっちゃったんですか?」
メトトレイさんはにっこりと微笑んだ。そしてその微笑みを浮かべた表情とは真逆の言葉を口にする。
「エイジェンに消されたからよ」
セリちゃんが片手を上げ、メトトレイさんの言葉を制した。
「メティさん、ごめんなさい。ちょっと……まずいです……」
セリちゃんが真っ青な顔で震えている。呼吸も荒い。
セリちゃんの毒が強くなってるのかもしれない。もしかしたら再現症状というやつなのかもしれない。
この話をこれ以上続けるのは、きっと良くない。
心配する僕をよそに、メトトレイさんはにっこりしたまま、セリちゃんの状態に全く動じることはなかった。
「ここでもうリタイアする? これ以上の話を聞くのは今のセリさんには無理かしら? じゃあもう昔話は終わりにして、フォリナーを呼んで治療を始めましょうか?」
セリちゃんはメトトレイさんを見つめ、それからすごくつらそうに目をぎゅっと閉じた。
何度も深呼吸をして、震える声で小さく「痛いの飛んでけ」と繰り返しつぶやく声が聞こえる。
セリちゃんが毒と戦っているのに。
セリちゃんが苦しんでるのに。
僕は何もしてあげられない。
僕はセリちゃんの毒を治療してあげることも、セリちゃんの苦しさを肩代わりしてあげることもできない。
ただセリちゃんの震える背中をさすってあげることしかできなかった。
「……レミケイド、あっついお茶淹れて。あっつあつで……うんと濃くて渋いやつでお願い」
セリちゃんが自分の毒を抑えつけながら、低く震える声でレミケイドさんへ声をかける。
セリちゃんが苦しんでいるのが伝わってるからだろう、レミケイドさんは小言も言わずに無言で立ち上がると、暖炉でお湯を沸かし直し始めた。




