piece.29-11
セリちゃんは悩んでいる。
真実と僕とを天秤にかけて。
そんなこと、悩むことなんか全然ないのに。
僕はメトトレイさんとレミケイドさんを見ながら、こう言った。
「僕は……少し知ってるんです。セリちゃんが前にいた場所のこと。セリちゃんの世話係だったお兄さんから少しだけ話を聞かせてもらったことがあるから……」
僕の言葉にセリちゃんが悲しそうな顔をして顔を上げる。
シロさんがセリちゃんと関係のある人だということを僕はレミケイドさんに伝えてある。
それは当然、ここのボスであるメトトレイさんにも伝わっているはずだ。
レミケイドさんがここに同席していること、その上でメトトレイさんがこの話をしていること、それはつまりシロさんもこの一件の関係者としてディマーズの中で認識されていると思って間違いない。
ナナクサの正体がシロさんだったとしても、違う誰かがナナクサを名乗っていたとしても、シロさんはきっとこの話に無関係ではないはずだ。
だから僕がここでシロさんのことを隠す必要性はないはずだ。
それに、僕はもう部外者でいたくない。
セリちゃんのことも、シロさんのことも、知らないままでいたくない。
二人とも、もう毒から解放してあげたい。
「だから、僕のことは気にしなくていいんだよ。僕が勝手に知りたいだけだから。
きっとここで話を聞かなくても、このままだときっと関わることになる……ううん、僕自身が関わりたいと思ってるんだ。無関係でいたくない。
セリちゃんが僕を危険から遠ざけようとしたって、たぶん僕は自分でそっちに向かうと思う。
僕は知りたい。セリちゃんのことも、シロさんのことも、二人とも毒と関係ない生き方をしてほしいから。そのために二人を苦しめてる正体を知りたい。だから……」
ダメかな? と僕はセリちゃんに笑って見せた。
セリちゃんも笑顔を返してくれる。
悲しそうな笑みだったけれど。
「私、何も知らず――じゃないですね、何も知ろうとせずに生きてました。
なんであちこち旅をしてるんだろう、なんで行く先々で人を殺していたんだろう。それが普通で、当たり前で、気にすることすらしなくなってました。
ただ団長が好きでやってることだって思ってました。でも、団長が死んだ後も、また団長の名前を使う人が出てきて、同じことをしていて……。でも、深く考えてきませんでした。
たぶん、知るのが怖かったんだと思います。団長のことを考えると今でもまだ怖くなります。毒が騒ぎ出すのも怖いですけど、また団長に惹かれてしまいそうになるのも怖くて……だからずっと逃げていました。
でも、やっぱりあの人は、また私の大切な人を傷つけに来た。今度こそ、もう終わりにしたいんです。今度はもう失いたくない。あの人と決着をつけたい。なぜナナクサという人が生まれてしまうのか……それは……知りたいです」
「そう。わかったわ。じゃあ話が全部終わったら、セリさんの再現症状の治療をしましょう。
きっと話を聞いている最中に何度か再現症状が出ると思うから、最後にまとめて治療しましょうね。ちょっと大変な治療になると思うから、気は進まないけどフォリナーも呼んでおくわね」
メトトレイさんの隣に座っているレミケイドさんが、なんとも沈痛な表情になったのを僕は見逃さなかった。
レミケイドさんの顔色が変わるくらい怖い人がここに来る。
その緊張が僕にも伝わってきた。
怖いディマーズのボスの人と同じくらい怖い人と思われる、ボスの人の妹な人であるフォリナーさん。
緊迫の夜は、まだまだ終わりそうにはなかった。
第29章 心傷の黒
KOKOROKIZU no KURO
~indication~ END




