piece.29-9
僕たちを部屋に通し、最後に部屋に入ったメトトレイさんはドアを閉めた途端、その場で倒れかけた。
あわてて駆け寄ろうとするセリちゃんへ、レミケイドさんが静かにするよう手で制す。
そしてもう倒れることが分かっていたかのようにメトトレイさんを支えている。
「騒ぐな。みんなが動揺する。せっかくここまでやせ我慢したボスの努力を無駄にするな」
低く小さな――けれど鋭い声で囁くレミケイドさんの表情に、事態の深刻さが伝わってきた。
「ふふ……、やせ我慢につき合わせてごめんなさいねレミケイド。
良かった……吐けるだけ吐いてきたから、さすがにもう何も出ないわね……。ふふふ、レミケイドたちにはひどいところを見せちゃったわ……」
げっそりとしたメトトレイさんの顔を見て、僕はメトトレイさんがみんなを心配させないように、わざと元気なふりをしていたことを知った。
「飲まされましたか? それとも刺されましたか?」
セリちゃんが眉を寄せながらメトトレイさんの脈をとったり、目を覗き込んだり、顔に触って確認している。
さっきレキサさんにしていたことと同じだ。
「どっちもよ。あとは変な煙も吸わされたわ。おかげでまだ頭が本調子じゃないの。ずっと頭の中がしびれている感じ」
「……オンパレードじゃないですか。よくそれだけ保ててますね。やっぱりメティさんってただ者じゃないですね。ちょっと驚きを通り越して、メティさんが怖いです私」
セリちゃんもメトトレイさんも笑っているように見えるし、今のセリフはセリちゃんが場を和ませようとして言ったのだとは思えたけれど、緊迫したこの部屋の雰囲気はちっとも緩むことはなかった。
「褒めてもらえて光栄よ。セリさんは、この手のことには詳しいのかしら?」
レミケイドさんに支えられて、ソファに腰かけたメトトレイさんは背もたれに力なく倒れかかった。
大きく息をついて、すごく辛そうだった。
「どうでしょうね、私は物覚えが悪かったので知識なんて立派なものは……。ただ頭が悪い分、体で覚えろと言われて一通りの毒薬は体験しましたね。だから自分が味わったやつなら大体覚えてます。……こことか押すと、少しは楽になるかなって思うんですが、どうですか?」
「そうね、少しマシね……」
セリちゃんはメトトレイさんの腕をマッサージしながらレミケイドさんへ声をかけた。
「レミケイド、食糧庫に行ってメニットとザインを持ってきてよ。そんなにたくさんじゃなくていいの。それをメティさんの分の紅茶に入れてあげて」
「人使いが荒いな……」
文句を言いつつ、素早い動きで食糧庫に向かうレミケイドさんが部屋から出ていくのを見届けると、メトトレイさんが小さくつぶやいた。
「ナナクサって人、あなたの姉と名乗っていたわ。心当たりはある?」
いきなり話題が核心に入った。




