piece.29-8
「じゃあナナクサって女は、本当にボスを殺す気はないってことか?」
そんな声を皮切りに、各々が持論を語りだす。
「わざわざレキサを解放して救援を呼ばせている。目的はなんだ?」
「レミケイドの言う通り、ボスの拘束は陽動で他に狙いがあるのか?」
「ここへの侵入が目的なら、まだ一切異常の報告はないな」
ディマーズの敷地内に異常がないまま、警備のローテーションが進んでいく。
談話室で過ぎていく時間を感じながら、僕はシロさんがどうしてこんなことをしてしまったのか、それだけを考えていた。
でも、どんなに考えても、答えは出ないままだった。
・・・
「ボスが帰ってきたぞ! みんな! ボスは無事だぞ!」
外から聞こえた報告にみんなの顔が輝いた。
レキサさんが顔を伏せて静かに泣いているのを、セリちゃんが優しく背中をさすってあげていた。
レミケイドさんに支えられながら、ディマーズのボスであるメトトレイさんはやつれた顔をして戻ってきた。
メトトレイさんはレキサさんを目にするなり、支えていたレミケイドさんを振り払ってレキサさんに駆け寄った。
「良かった……レキサ……! 無事でよかった……!」
「母さん……ごめん! すぐに助けられなくてごめん……!」
レミケイドさんが、小さく咳ばらいをする。
「ボス、体に障りますから」
「んもう、レミケイドって本当に空気読まないわね。親子の感動の再会に水を差さないで頂戴」
口をとがらせて文句を言うメトトレイさんに場が和む。
みんな緊張がゆるんだみたいで、安堵の表情を浮かべていた。
アダリーさんもこっそり涙をぬぐっていた。ボスが帰ってきてくれて安心したんだと思う。
そんなみんなの顔をひとりひとり見渡しながらメトトレイさんがほほ笑んだ。
「みんなごめんなさいね、心配をかけたわ。それともう一つごめんなさい、実行犯を逃がしてしまったの。あとで人相書きを作って手配をかけます。残念だけど今は頭がぼんやりしていて、記憶があいまいなの。だから準備だけお願いね」
「ボス、報告が」
アダリーさんが控えめに近づき、メトトレイさんの傍で耳打ちする。
「そう、分かった。対処するわ。
セリさん、あなたの情報網を提供して頂戴。私の部屋でお茶でも飲みながらでどうかしら?」
「僕も一緒に行ってもいいですか?」
セリちゃんが返事をするよりも先に、僕はそう口にしていた。
メトトレイさんは僕がそう言うのをもう分かっていたような表情で優雅にうなづいた。
「ええもちろん。紅茶はお好き? レミケイドに淹れさせるわね」
「……それは自分の仕事ではなく……」
レミケイドさんが遠慮気味に不満を口にした。さすがボスの人だ。レミケイドさんの一言一言がなんか遠慮がちだった。
「レミケイドが淹れた方がおいしいからレミケイドのお茶が飲みたいの。お願いね?」
「……了解致しました」
レミケイドさんがため息をつきながらも従っているのを見て、僕はディマーズのボスの人のすごさを思い知るのであった。




