peace.4-2
街道には、馬車の馬を休ませるための『休憩所』と呼ばれる場所がある。
そして休憩所には、馬に休憩させてるヒマがないくらいに急ぐ人用に、元気な馬に取り替えてくれる『交換所』とかもある。
でも別に馬だけの休憩所なわけじゃなくて、ちゃんと人のため休憩所もある。
泊まる場所とか、食事をする場所とか、そういうお店が集まって、小さな町みたいになってる場所が、街道を歩いてるとポツンポツンとあった。
普通の旅人は、夜に外を歩いていると野盗やモンスターに襲われたりするので、日が暮れる前にこういう休憩所に泊まるものらしい。
普段の僕たちは一応お尋ね者なので、そういう場所には立ち寄らないようにしてたんだけど、今回ばかりは野宿は無理そうだった。
そう。セリちゃんの読みは大当たりだった。
さっきまでのいい天気が嘘みたいに、ドシャ降りの雨が僕たちを襲ったからだ。
「わーっ! やっぱ間にあわなかったかー!」
悲鳴を上げながら走ったけれど、一瞬でずぶ濡れになってしまった。
僕としてはもう急いでも無駄だから、頭とか体とか洗っちゃおうかなって思うくらいのいい雨だったんだけど、雨の音がすごすぎて、全然セリちゃんに僕の声が届かなかったから、仕方なく僕は走り続けた。
体に穴が開くんじゃないかってくらいの勢いの雨に打たれて、僕もセリちゃんもヘトヘトになって、ようやく街道沿いの休憩所にたどり着いた。
宿屋に入ると優しそうなおじさんが出迎えてくれる。
「お客さんギリギリセーフだったね。あと残り一部屋だったよ。一緒の部屋でもいいかい?」
無言でうなづいて、早々に宿の記帳したセリちゃんを見て、宿のおじさんが笑う。
「ハハハ……。いやあ、ずぶぬれだねえ。風邪ひくと悪いから早く部屋に入って着替えるといい。
湯が必要なら――ほら、そこで沸かしてる。食堂が閉まるまでは自由に使ってくれていい」
偽名の『トーキ』と記帳したセリちゃんは、ちょっと低めの声でボソボソと、おじさんへありがとうと伝える。
大きめの水差しとたらいを貸してもらうと、お湯を分けてもらって、僕とセリちゃんはすぐに部屋に入った。
ずぶ濡れのフードを取らないままでも、あまり会話をしないですぐに部屋に入ってしまっても、これだけ大雨でびしょ濡れになってる状態のせいか、怪しまれているような気配はないみたいだ。
僕は少しだけ、大雨に感謝した。




